受賞名:
第16回(2016)JACS(日本消費者行動研究学会)論文プロポーザル賞 優秀賞
受賞報告:
「消費者の行動特性とイノベーション再検討:リードユーザー尺度の製品分野を超えた拡張」
日時:
2016年11月12日(土)
会場:
専修大学 生田キャンパス
受賞コメント:
この度は、第 16 回 JACS 論文プロポーザル賞優秀賞をいただき、大変うれしく思っ ております。
現在私が取り組んでいる研究は、どのような特徴を持った消費者がどのような状況 で創造性を発揮し、製品の改良や創造に携わるかについてです。今回のプロポーザル では、その一環として「消費者の行動特性とイノベーションの再検討―リードユーザ ー尺度の製品分野を超えた拡張」という標題で発表させていただきました。
消費者行動研究における革新性概念の研 究は、Rogers の普及理論に対する批判とし て始まったという歴史的経緯から(Midgley and Dowling 1978)、長きにわたって新製品 の早期採用傾向に限定した形で行われてきました。しかし、2000 年代半ばから Journal of Consumer Research に消費者による製品 改良、製品創造を扱った論文が掲載されるようになり 、 今では消費者イノベーター (consumer innovator)という語は、イノベ ーションの原義通りに、製品の改良や創造を行う消費者を表すものとなっています (Martin and Schouten 2014)。
製品の使い手自身が製品を改良・創造するユーザーイノベーションという現象については、すでに 40 年に渡る研究成果の蓄積があります(von Hippel 2005; 小川 2013)。 そこでは、関連する新製品や新プロセスのニーズにおいてトレンドの最先端にいる「先進性」および、ニーズの解決によって高い便益が得られると予期している「高便 益期待」という2つの特徴を持つリードユーザーがイノベーションの担い手であることが示されています。特に2000年頃から消 費者によるユーザーイノベーションに注目が集まり、消費者イノベーターの特徴を表す構成概念としてリードユーザー尺度が開発されました。
既存のリードユーザー尺度は、製品のトレンドに関わる概念だということを 1 つの 理由として、製品分野を限定して操作化さ れています。しかし、特定の製品分野を超えて市場一般についての知見をもつマーケ ットメイブンという消費者が存在することから、リードユーザー尺度を製品分野に限 定して考える根拠は希薄なものといえます。 そこで今回は、製品分野の限定を外した上 で先進性と高便益期待がそれぞれ操作化できるかについて研究しました。その結果、 両者はそれぞれ妥当な尺度として成立する のみならず、消費者イノベーションの発生可能性に説明力を持つことを見出しました。 現在は、先進性と高便益期待のそれぞれが イノベーションのどの側面に影響を与えるのか、それぞれの先行要因は何かについて 研究を進めております。
Web 上のサービスの発展と普及によって クチコミが増大・可視化されたように、3Dプリンタなどの生産手段の利用が容易になることで消費者イノベーションはますます一般的なものになると予想されます。普及 研究やネットワーク理論などの研究分野と、 創造性研究や企業家研究などの研究分野の 両者と関係するリードユーザーについての 理解を深めることで、消費者行動研究の蓄積を新しい現実につなぐことができるのではないかと考えております。
末筆ながら、JACS 論文プロポーザル賞の審査を務められ貴重なコメントを下さった 先生方、学会およびコンファレンス運営に携わって下さっている皆々様、様々な場面 で貴重な意見や情報を下さる先生方、西川 英彦先生をはじめとする日頃からご指導、 ご助言を下さる先生方に感謝を申し上げます。今回賞をいただいたことを励みに、消 費者行動研究に貢献する成果を出せるよう、 より一層の精進に努めて参ります。今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
(JACS NEWSLETTER Vol.25 No.2、p.2)
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