column 2015.2.5

「売り場の今、スマホ発信 ― 公私の垣根越え、新市場:クックパッド(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【写真】現場の従業員も特売情報を発信する(東京都台東区の多慶屋)

【写真】現場の従業員も特売情報を発信する(東京都台東区の多慶屋)

 販売現場の従業員が自分のスマートフォン(スマホ)で売り場の今を発信する。そんな公私の垣根を越えたサービスが、新市場創造の可能性を持つ。レシピ投稿サイトのクックパッドが2013年2月に始めた「特売情報」がその好例だ。

 利用者がサイトで自宅の郵便番号を登録すると、近所のスーパーなどの特売情報が無料配信される。会員数は300万人に上り、参加店舗は7000軒を超える。大手スーパーだけでなく、商店街の小規模店舗なども参加している。

 「これからマグロをさばきます」「アスパラを揚げます。1時間後に買いにいらしてください」――。店舗側は、こんなコメントと共にその写真をリアルタイムで掲載できる。

 190万品のレシピを掲載するという同社の強みを生かし、特売商品はレシピと自動連携する。ゴーヤであれば、ゴーヤチャンプルが表示され、あわせて使う豚肉や豆腐の併売にもつながる。逆にレシピを検索すれば、食材の特売情報が表示される仕組みだ。

 在庫状況や天候に応じ、特売情報をリアルタイムで発信できるため、生鮮食品の販促にも向いている。紙のチラシでは一般的に1カ月前に内容を決定するため、価格変動が大きい生鮮食品は扱いにくかった。

 店舗側には3月から月額5000円を課金するが、月額数十万円かかるというチラシに比べると安価だ。特定地域の不特定多数に幅広く告知するという点ではチラシには及ばないが、何人に情報が届き、何人に見られ、その住所分布まで分かり、効果を検証できる。

 さらに、特売情報の発信は本部や店長でなくても、現場の従業員で可能だ。スーパーでは従業員1人にパソコン1台というわけにはいかないが、それぞれが使い慣れた自分のスマホから、簡単な操作で売り場の今を発信できる。

 買物情報事業部の沖本裕一郎部長は「まさに、威勢のいい店頭の声掛けの感覚だ。小売りの現場の発信力をネットに広げられる仕組みを目指した」と話す。

 サービスを利用する店舗では、今までコンビニで生鮮食品を買っていた20~30歳代女性の購入が増えたところもあるという。

 販売の最前線に立つパートの女性などが使いやすいサービスとすることで、地域生活者の視点を交えた情報発信が可能となる。「公私の垣根が低い」ともいえるマーケティングツールが新しい市場を掘り起こす。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「売り場の今、スマホ発信 ― 公私の垣根越え、新市場(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年2月5日 付け、p.15