column 2017.8.24

「メルカリ経済圏 ― 訴求対象、段階的に拡大(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

メルカリはプロモーションの内容を徐々に変えてきた

メルカリはプロモーションの内容を徐々に変えてきた

 成長段階に応じたプロモーションの活用が新市場を創造する。その好例が、フリーマーケット(フリマ)アプリのメルカリ(東京・港)だ。スマートフォンのカメラで商品を撮影し、商品状態と価格を記入するだけで出品できるという手軽さが受け、国内で5千万もダウンロードされている。

 しかし、成長したのはサービスの良さだけではなく、巧みなプロモーションがカギ。同社の鋤柄直哉シニアマーケティングスペシャリストは「資源や予算が限られている中、段階に適したプロモーションが不可欠だった」と説明する。

 13年7月の導入期はテストマーケティングのため、主要な顧客層となる20歳から34歳のF1層のママに絞ってネット広告を打ち、サービス改善に集中した。14年5月からは、F1層の認知度を高めるため、その層に響くテレビCMを開始。メルカリの名称や、フリマアプリ、売り買い両方可能という3点を訴求。同時にネット広告も拡大し、ママタレントによるPRイベントも開催した。リアルでも、メルカリフリマを複数のエリアで開催し、メルカリ体験ブースを設置。地方開催時はテレビ局とタイアップして訴求した。

 2千万ダウンロードを超えた15年10月から顧客層拡大のため、男性を意識し、安心取引などの具体的メリットを訴求したテレビCMを開始。さらに認知度向上のため、1社提供のテレビ番組も始めた。掃除のプロが芸能人宅を掃除し、使わない私物を発掘してメルカリで売り、その売り上げで必要なものをメルカリで買い、プレゼントとして返すという企画だ。

 3千万ダウンロードを超えた16年5月からは、認知度向上を受け、QRコードで簡単に匿名配送可能なメルカリ便など、フリマ最大手としてのサービスの充実を訴求した。

 4千5百万ダウンロードを超えた17年2月からは、女性向けや大衆向けという定着した評価に、新たなイメージの付加を狙った。男性向けに、ゴルフや釣り、車などの趣味を訴求。オシャレするのにも使えるサービスを訴求するため、ファッションリーダーであるタレントの私物出品や、ファッションショーでのチャリティーフリマを開催。サービスが体験できる「メルカリカフェ」も原宿に期間限定で開設した。

 このように段階ごとに顧客層や目的を決め、成長してきた。単に資金の効率化だけでなく、段階ごとに検証し、見直しできたことが肝要だろう。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2017)「メルカリ経済圏 ― 訴求対象、段階的に拡大(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年8月24日付け、p.15.