column 2017.4.6

「モノづくり支援アプリ ― ユーザー委託で新市場:monomy(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 個人が簡単にモノづくりを楽しめるよう支援する「ツールキット」と呼ぶサービスが、新市場を創造する可能性が出てきた。その好例が、FUN UP(東京・渋谷)のアクセサリー創作のスマートフォン(スマホ)アプリ「monomy(モノミー)」=写真=のケースだ。

 ユーザーは無料のアプリを入手し、自分のブランド名をまず決める。後から変更することも可能だが、作品の販売を前提とした設計が創作意欲をかりたてる。特別な技術や器具がなくてもスマホがあればモノづくりが始められる。3000種類以上のパーツの中から気に入ったパーツを選び、直感的に指で動かして自由に組み合わせ、数分間で作品が創作できる。完成した画像はまるで本物のアクセサリーのようで、試着イメージも同時に確認できる。

 2015年9月の開始以来、主に25歳から45歳の女性が会員となり、創作された作品は36万点に上る。価格は2500円から3000円のものが多い。従来のアクセサリービジネスでは考えられないが、毎日2000もの販売可能な作品が公開される。ひとりで何点も創作する人が多い。空き時間のひまつぶしに利用されている。

 注文が入ると、提携する26社のパーツ卸やメーカーからパーツを仕入れる。FUN UPの職人が製造から、3回にわたる検品、決済、配送、アフターサービスまでを担う。画面上のアクセリーは全て画像であるうえに、受注生産のため、在庫リスクはユーザーも同社も持たない。

 作品の他者購入は45%あり、他の人に売れるとユーザーは嬉しいだろう。しかもユーザーは販売額の10%をデザイン料として受け取れる。売れなくても他者からの「ライク(好き)」が寄せられる点が、次の創作のインセンティブになる。

 山口絵里社長は「従来のビジネスと比べ在庫リスクなどがなく、市場での同じ程度のアクセサリーに比べ、半額ほどの価格になる」と説明する。さらに共同購入による3~8割引の格安価格での提供や、4月26日から日本橋三越本店(東京・中央)の特設店舗でのこの仕組みを使った実演販売など、新展開も目白押しだ。

 このように企業の業務を、ツールキットによってユーザーに委託することで、市場が創造できる業界は、ほかにもあるのではないだろうか。その際に、同社のケースのように、同時に従来のビジネスモデルを見直すことも重要であろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2017)「モノづくり支援アプリ ― ユーザー委託で新市場(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年4月6日付け、p.15.