paper 2008.11.17

「創発的デザイン・プロセスにおける創発メカニズムの考察」『立命館大学経営学部ディスカッション・ペーパー・シリーズ』

西川英彦(2008)「創発的デザイン・プロセスにおける創発メカニズムの考察」『立命館大学経営学部ディスカッション・ペーパー・シリーズ』26、11pages.

 近年、米国デザイン企業のIDEOをはじめ、P&GやGE、良品計画などの先駆的企業において、「創発的デザイン・プロセス」が多数実践され、その市場成果も生まれきた(Kelley and Littman[2001][2005]、西川[2006a][2006b][2007]、奥出[2007]など) 。ここでいう創発的デザイン・プロセスとは「顧客観察とプロトタイピングをベースに、ブレインストーミングを通じて創発を生まれやすくしたデザイン・プロセス」のことである 。
 創発的デザイン・プロセスに関する研究は、デザイナーをはじめとする実務家あるいは研究者により研究が蓄積されてきた(Leonard[1995]、Leonard and Rayport[1997]、Leonard and Swap[1999][2005]、Kelley and Littman[2001][2005]、深澤[2002][2005]、後藤・佐々木・深澤[2004]、西川[2006a][2006b][2007][2008]、Moggridge [2006]、奥出[2007])。こうした創発的デザイン・プロセスにおいては事例を中心に経験的な諸研究が行われているものの、そのプロセスにおいてなぜ創発が生まれるのかについては充分には議論されていない。
 こうした中、紺野[2008]において「知識創造モデル」を援用して創発のメカニズムを明らかにしようとする先駆的な試みが行われている。だが、この研究は創発的デザイン・プロセスについての経験的な諸研究と接続されているわけではない。はたして紺野[2008]の創発のメカニズムは妥当性があるのだろうか、このことを明らかにしていくのが本稿の目的となる。
 本稿の構成は、以下の通りである。はじめにそもそも創発的デザイン・プロセスとは何かについて確認を行なった上で、紺野[2008]における創発的デザイン・プロセスの創発メカニズムを考察し、こうした考察を通じて創発的デザイン・プロセスにおける創発が生まれやすいメカニズムについての示唆を明らかにして報告のまとめとする。
(続く)