paper 2011.3.30

「共創的リサーチとしての 『クラウドソーシング』」『マーケティング・リサーチャー』

西川英彦(2011) 「共創的リサーチとしての 『クラウドソーシング』」『マーケティング・リサーチャー』No.114、pp.18-23.

 近年、インターネットの発展に伴い、ふつうの人々すな わち「群衆」(Crowds)を活用した製品開発などのイノ ベーションが生まれている。こうしたイノベーションについ て、デジタル関連の雑誌『ワイアード』のエディターである ジェフ・ハウは、同誌において「クラウドソーシング」 (Crowdsourcing)と名付けた。彼は、特定の企業や研 究機関、個人が、仕事として企業の業務を請け負う「アウ トソーシング」と対比させ、クラウドソーシングを「ふつうの 人々がコンテンツの創造や問題解決、企業の研究開発 をするために、彼らの余剰能力(スペアサイクル)を使うこ と」と説明した(Howe 2006)。 こうしたクラウドソーシングは、アディダス、BBC、ボーイ ング、BMW、デル、エレファントデザイン、IBM、P&G、パ ナソニック、ローソン、良品計画、ヤマハなどの企業にお いてグローバルに実践され、市場成果をあげている(西 川・本條2011)。さらにいえば、クラウドソーシングは伝 統的な製品開発の手法に比べ、販売実績やアイデア の新規性、顧客便益の点で成果があることも実証されて いる(小川・西川2006、Poetz and Martin 2010)。 つまり、群衆のアイデアが企業内部の専門家のアイデ アよりも優れた成果を生み出しているのである。 こうしたなか、企業内部の専門家による製品開発プロ セスを前提にしていたリサーチはどうあるべきだろうか。そこ で、本稿では、クラウドソーシグを理解するとともに、クラウ ドソーシングにおけるリサーチと、伝統的製品開発におけ るリサーチとの比較を行う。このことが本稿の目的となる。 以下、本稿ではクラウドソーシングとは何か、そしていか なる市場成果を生み出しているのか、さらにそのために 重要となる点は何かについて確認したうえで、クラウド ソーシグにおける調査と伝統的な調査とは、どのように異 なるかについて考察し、本稿のまとめを行う。

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