column 2017.2.23

「社員旅行 ― VBの創造性の源:チームラボ(西川英彦の目)」 『日経産業新聞』

 創造性は、どこから生まれるのだろうか。創造的企業は普通の企業が思いもしない会社行事でさえ創造性の源泉にしてしまう。その好例がデジタルアート制作で世界的に有名なベンチャー企業、チームラボ(東京・文京)の社員旅行だ。

 社員旅行は、親睦や慰労などの目的で開催され、旅先での観光や飲み会がメインであることが多いだろう。そのため、参加しない人がいるかもしれない。同社の社員旅行は、一味違っている。

 昨年7月の社員旅行では、「散らかしの流儀」という創作物を使って競い合うワークショップが実施された=写真。配布された材料で、テーブル間に掛けられた糸の橋を渡りきる装置を製作し、より多くの「おはじき」をより高いポイントのエリアにばら撒けるかを競い合う。ポイントが極端に高いエリアもあり、競争心をあおる。

 配布されたのは、ハサミ、アイデア共有用紙、ペン、プーリーセット、電池・ケース、モーター、おはじき、プラスチック段ボール、磁石、紙カップ、ストロー、割り箸、竹串、タコ糸、風船、輪ゴム、ペットボトルキャップだ。

 最小限のものは入っているが、後は工夫して作ることが求められる。なかには、使いものにならなそうなものも入っている。

 7~8人でチームを組み、18チームが競い合った。どのチームも、何もヒントがないから全く違うものが創作された。1位は1877点と高得点だったが、7チームが0点と大きく差が付いた。

 こうしたワークショップから宿の手配までを担うのが同社の新人だ。何を社員が面白いと思うかを考え、3つくらいのアイデアが出て、100円ショップで購入したもので試しつつ決定した。この企画に4月から3カ月間も費やした。

 チームラボのカタリスト(ディレクター)の高須正和氏は、「知っている人が一瞬で解けるようなものではなく、手元のもので実証するしかない企画がいい。事前に主催者がやっていないものもダメ」だという。

 創造性の高い同社でさえ、この企画に得意なものはいない。答えのないことを仲間と考えつつ、試行錯誤していく姿勢が創造性をもたらすのであろう。

 皆さんも会社行事を創造性の視点で見直してはどうだろうか。実は、我がゼミの春合宿でもロボットコンテストを開催し、創造性への新たな地平がひらかれたように感じる。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2017)「社員旅行 ― VBの創造性の源(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2017年2月23日付け、 p.15.