ブランド創造において、既存ブランドとの違いを打ち出すことは成否の鍵を握っている。こうした差異化の検討はコンセプト開発の段階で行うのが、マーケティングの定石である。だが、最初の探索的調査の段階から、既存ブランドと明示的に対比を行えば、より斬新なブランドを創造する可能性をもつ。それが、資生堂の若年層向けメーキャップブランド「マジョリカマジョルカ」の事例である。
2003年に発売されたマジョリカマジョルカ=写真は広告=は、現在、日本をはじめ、台湾、香港、シンガポールなどアジア7カ国・地域で、同じ商品、宣伝、店頭イメージ、ウェブサイトで展開される。魔法の呪文のような名前、秘薬のようなパッケージ、店頭イメージは秘密の宝箱、コミュニケーションは秘薬により変わり続ける女性と、明確なブランディングができている。
だが、そのブランド創造は簡単ではなかった。開発前の資生堂では、「ピエヌ」という20~30代のメーキャップブランドが若年層もカバーしていたからだ。当時、流行よりも自分らしさを表現しようとする新しい価値観をもつ若年層が増えてきているのを理解していたが、それが一体どんなブランドなのか見当もついていなかった。社員には少ない若年層の商品でもあり、市場にも対応した商品がなかった。しかも、ピエヌと競合しないようなブランド開発が望まれていた。
そこで、2つの価値観をもつターゲットを並列して調査するという新しい試みを始めた。2つの顧客群に、事前になりたい女性像のコラージュや、ファッション写真などを用意してもらったうえで、それぞれに深層面談を実施した。こうして、その違いを明確に理解でき、独自性の高いブランド創造につながった。
だが、顧客はコンセプトを明示的に語ったわけではない。さらに、企画部門だけで理解したわけでもなかった。通常コンセプト開発段階では入らない広告クリエーターや、パッケージデザイナー、コピーライターなどの横断的なチームが、顧客の持つ曖昧なイメージを理解したからこそ、生まれたという。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2011)「マジョリカマジョルカ ― 比較市場調査でブランド創造(西川英彦の目)」 2011/09/15 『日経産業新聞 』2011年9月15日付け、p.9.