column 2011.10.27

「ソーシャルビジネス勃興 ― コミュニティー、起業後押し:イノベーション・ウィークエンド(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

第1回イノベーション・ウィークエンドの様子

第1回イノベーション・ウィークエンドの様子

 ソーシャルメディアやクラウドソーシングなどコミュニティーを基礎にしたビジネスが増えている。起業家支援でも、こうしたコミュニティーをうまくつくる場をもてば、新市場創造を促す可能性が高まる。その例が5月から始まった「イノベーション・ウィークエンド」というイベントだ。

 このイベントは、起業支援のサンブリッジ(東京・渋谷)、ネットベンチャー専門のニュースメディアのベンチャーナウ(同)、起業支援のネットエイジ(東京・目黒)の3社が中心となり、5月から毎月開いている。そこでは、起業家6人を対象としたピッチコンテストを行う。ピッチコンテストは米シリコンバレーが発祥で、起業家が投資家に事業プランなどをアピールするものだ。ゲストの講演から始まり、起業家による発表、質疑応答を経て、参加者全員による投票で優勝が決まる。その後には懇親会が開かれる。

 イベントの目的は、起業家と投資家を結びつけることだけでなく、起業家同士や弁護士などとの交流、相互に新しい知識が学習できるコミュニティーの形成だ。起業家支援は様々な取り組みがあるが、同イベントはグローバル市場を狙う若手起業家を対象とし、毎月開催で対象者も多いのが特徴だ。

 対象はベンチャーナウが毎月取材している50~100社の中から、6社が絞り込まれる。その判断基準は、(1)まだ知名度はない(2)ビジネスモデルが固まっていないがポテンシャルがある(3)ベンチャーキャピタルの資金が入っていない――という起業家である。資金だけでなく、多くの知恵が必要な起業家である。

 その背景には、ソーシャルメディアなどの普及で、それらの関連事業を少ない資金で始めやすくなり、事業経験が少ない若手起業家が増えたことにある。ネットに詳しい起業家OBなどの投資家が増えたことも関係している。

 こうしたコミュニティーは、何も起業家だけが必要なのではない。今こそ企業内の新規事業のメンバーにも同様の環境を提供できれば、イノベーションを生む可能性が広がるのではないだろうか。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「ソーシャルビジネス勃興 ― コミュニティー、起業後押し(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年10月27日付け、p.9.