column 2011.11.24

「『補完』が生む美味しい関係 ― 味の素、スープ市場熱く:クノール カップスープ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 2つの製品の「補完関係」を強調するコミュニケーションが、新市場創造の可能性をもつ。補完関係とは、一方の製品の消費が増えれば、他方の製品の消費も増えるような関係のことである。その好例が、味の素の「クノール カップスープ」だ。

 味の素は同製品にパンをつけて食べるという朝食のスタイルを、昨年よりテレビCMやインターネット、店頭を通じて訴求している。その結果、売り上げは前年比20%も上昇した。同製品がトップシェアをもつカップスープ市場全体も15%の成長だ。

 そもそも同製品は1990年前後、「朝ごはん、ちゃんと飲んでる?」というテレビCMのフレーズが象徴するように、カップスープ自体が簡便な朝食となりうるという訴求で大きく成長した。つまり、パンなどの他の食べ物が競争相手となる。これは「代替関係」の訴求であり、一方の製品の消費が増えれば、他方の製品の消費が減少する関係のことである。

 その後、ここ10年ほどは、同製品の売り上げは伸び悩んでいた。同社は再び活性化させるために、カップスープが最も飲まれている朝食の実態調査を始めた。朝食の食べ物の70%がパンであり、スープは10%しかないことが分かった。さらに、両者の補完関係の存在が明らかになった。朝食にスープを飲んでいる人の70%が一緒にパンを食べていたが、朝食にパンを食べている人の12%しか一緒にスープを飲んでいなかった。そこで朝食にパンを食べている人にスープを飲んでもらうため、両者の補完関係を強調する訴求を行ない、もくろみ通り市場を拡大した。

 意図せざる結果も生まれた。両者の補完関係が、新しい価値をもたらしたのだ。スープはパンをしっとりと食べやすくし、パンは熱いスープを飲みやすい適温に変えた。その結果、今まで朝に時間がなくて、朝食をとらなかった人の需要を取り込んだ。

 では、補完関係の訴求は、いつも有効だろうか。本事例で忘れていけないのは、代替関係でもありえたということだ。コミュニケーションや新製品開発によって、両者の関係は変化する可能性をもつのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「『補完』が生む美味しい関係 ― 味の素、スープ市場熱く(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年11月24日付け、p.9.