column 2011.12.15

「売りながら市場調査 ― 特集、好反応なら連続掲載:smart(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 新製品開発の過程で、市場調査や実験をすることはあるだろう。だが、販売しつつ調査することでも、顧客創造の可能性が高まる。その好例が、競争が激化する雑誌市場で成長を続ける男性ファッション誌トップ(36万部)の宝島社の「smart」である。

 11月発売の最新号の表紙には、たくさんの見出しが並ぶ=写真。表紙で内容を分かりやすく伝えることで、新規の読者にも買いやすくするための工夫だ。イメージが中心の一般的なファッション誌の表紙とは、大きく異なる。最新号のメーン特集は売れ筋で女性にも受けやすい「腕時計」だ。

 この企画は、1月に有名人のかばんや腕時計などを紹介した「男の持ち物検査!」という大きな特集に遡る。読者アンケートの結果、腕時計の企画は好評で、2月に最新腕時計として再びサブ特集で扱った。これは異例のことだ。一度、腕時計を特集すれば、数カ月は間をあけるのが、今までの雑誌の常識だった。

 だが、同社は、その前提を疑った。その疑問の正しさを裏付けるように、腕時計は好評だった。3月に売れ筋小物、4月に人気芸能人の持ち物、5月に4大腕時計図鑑、6月に新作腕時計、8月に有名人の持ち物と新作というように、腕時計をテーマとした企画を内容を検証しつつ、切り口を変えながら扱った。

 同時に、1月に女性に評価される「モテ部屋」などの企画が実験され、その後も同じように女性の目を意識した服や部屋を継続的にとりあげた。この企画もこれまで大々的には取り上げられなかったテーマだった。最新号の特集は、腕時計と「女性から受ける」の2つが合わさった形だ。

 従来のファッションだけを好きな読者以外にも購入層を広げる実験もしている。例えば、アイドルやスポーツ選手の記事。それぞれ数万人の新規読者を引き込んだという。

では、実験すればいつも有効なのだろうか。新しい提案がなければ、人気企画追求で、いずれ縮小均衡になる可能性もある。smartの例のように、常識にとらわれず挑戦する姿勢が重要だ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「売りながら市場調査 ― 特集、好反応なら連続掲載(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年12月15日付け、p.9.