column 2012.2.23

「『エバーノート』 ― 連携オープン、新市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 自社製品と、外部の製品やサービスを連携しやすくすることで、新市場を創造する可能性が高まる。その好例が、米国発のクラウドサービス「エバーノート」である。

 エバーノートは、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)、携帯電話などでインターネットを使って、テキストや写真、音声、ウェブサイトなどのデジタルデータをクラウド上に保存し、その情報を簡単に探し出せるサービスである。月内の保存量が一定内であれば無料だ。現在、利用者数は全世界で2200万人を超える。

 従来のデジタルデータが、文章作成、画像管理、音声管理など目的に応じたソフトで利用されていたことからみると、エバーノートの発想は大きく異なる。エバーノートでは、まさに人間の脳のように、あらゆるデータが混在しても管理できる。

 こうしたエバーノートは、外部の製品が簡単に連携できるようオープンな仕組みを採用している。さらに連携の審査もなくライセンス費用もかからない。そのため、生態系のように広がり、エバーノートと連携する製品やサービスは、現在1万社を超える。その中心は、スマホで保存や閲覧するためのアプリ(応用ソフト)である。だが、ソフトだけでなく、スキャナーや、ボイスレコーダー、テレビ、プリンター、デジタルペン、コンビニエンスストアのコピー機などの製品とも連携して、エバーノートに簡単にデータを送信したり、エバーノートのデータを利用したりできる。キヤノン電子のスキャナーの箱には、エバーノートのロゴが表示される=写真。

 こうした連携で、エバーノートはユーザーの利便性を上げ、利用する機会を増やせる。利用期間の長いユーザーは、有料会員化する率も高いという。一方、外部メーカーにとっても、世界中のエバーノートのユーザーへと製品の利用が広がる可能性をもつ。

 だが、留意しなければいけないのは、そもそもの製品の良さや、連携のしやすさだけでは生態系のように変化する市場には対応できないということだ。エバーノートでは、形式的な会議や仕様書はなく、即時に対応しているのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「『エバーノート』 ― 連携オープン、新市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年2月23日付け、p.9.