column 2012.4.5

「キャンプファイヤー ― 消費者参加型の事業創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 消費者が事業活動に参加する領域を広げると、新市場が生まれる可能性を持つ。インターネットを通じ企業が消費者から製品アイデアを提供してもらう消費者参加型製品開発「クラウドソーシング」の事例を聞いた人も多いだろう。近年さらにその領域が広がり、消費者参加型事業創造といえる「クラウドファウンディング」が生まれている。

 それは消費者がネットを通じてアイデアへの資金提供や自らのアイデアによる資金調達ができるサービスである。日本の草分け的なサイトの一つが、ハイパーインターネッツ(東京・渋谷)が運営する「キャンプファイヤー」である。

 同サイトではアートから音楽、映画、お笑い、社会貢献、製品までの多種多様な案件が掲載される。2011年6月のサイト開設から掲載案件は90を超え5000人の消費者が60近くの案件に2500万円を支援した。期限内に目標金額が未達の場合、支援者は払う必要はない。達成した場合、20%が同社の手数料となる。

 現在、米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」向けに、写真に寸法を記録できる巻き尺付きのケース「iConvex」の開発資金が募集されている=写真。2カ月間で100万円の資金が目標で、半分ほど集まっている。通常だとニッチな需要だと想定される製品のため、市場性の確認にもなると考えたという。

 サイトでは誰が支援者(パトロン)かが表示され、交流サイト(SNS)などと連携しその知人にも広がる。先の案件の場合、消費者は500円支援するとサイトに名前が載り、1万円以上支援すると現物や限定品が贈られる。製品との「絆」をつくるような見返りであり、一般的な投資での金銭的な報酬とは大きく異なる。消費者と製品との関係をつくる顧客創造の資金でもある。

留意しなければいけないのは、できた絆の維持がより重要となることだ。サイトでも用意されているように、達成後の活動報告などの丁寧なコミュニケーションが不可欠となる。育ての親の目は厳しいのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「キャンプファイヤー ― 消費者参加型の事業創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年4月5日付け、p.9.