column 2012.5.24

「素材の新しい利点 ― 容器割り、たれかけやすく:金のつぶパキッ!とたれとろっ豆3P(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 素材が持つ新しい利点に気づけば、新市場創造の可能性が広がる。その好例が、ミツカンが今年発売した納豆「金のつぶパキッ!とたれとろっ豆3P」だ。

 開発のきっかけをたどると、2008年発売の「金のつぶあらっ便利!超やわらか納豆とろっ豆3P」に遡る。それまで納豆のたれ袋は開封時に中身が飛び散ったり開封後のフィルムで手や食卓が汚れたりするという不満を持つ消費者が多かったが、この製品はたれをゼリー状の「とろみたれ」にすることでそうした問題を解決した。

 ところが、ゼリー状にしたためにかき混ぜにくくなったという意見も出て、50~60代を中心に客離れが起きた。そのため、なじみのある液体で、混ぜやすく手を汚さないたれ袋の開発が必要となった。例えば、蓋と受け皿の間にフィルムを挟み、蓋をしたままフィルムを引っ張るとたれが納豆にかかるといった、いくつかのアイデアを検討したが、どれもコストが高く実現性が低い。

 そうしたなか、ある開発担当者が発泡スチロールの容器を触っていると偶然、その素材が繊維質で一定の筋に沿って割れやすいという利点に気づいた。発泡スチロールは安価な上に保温性が高く納豆の発酵を促しおいしくさせることができるため、広く納豆容器として利用されている素材だ。偶然気づいた「割れる」という利点から、発泡スチロールの蓋の上部にフィルムを付けてたれを入れ、食べる前に蓋を割りたれを出してかけるというアイデアが生まれた=写真。

 1年半かけて商品化し今年1月に関西以西で発売。3月に東海・北陸、4月には関東でも発売し、従来の「とろみたれ」の商品の2倍以上の売り上げとなった。50~60代の消費者を呼び戻しただけでなく、今まで納豆を食べていなかった消費者も新たに取り込んだ。

 どうすれば素材の新しい利点に、気づくことができるのだろうか。ミツカンの事例に1つのヒントがある。「割れる」という利点は、消費者からはクレームとして寄せられていて、以前より欠点としては理解されていたのである。欠点は、見方を変えれば利点にもなり得るのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「素材の新しい利点 ― 容器割り、たれかけやすく(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年5月24日付け、p.9.