意外性のある組み合わせを実現させれば、新市場創造の可能性がある。その好例が、あまり健康的なイメージがないコーラ飲料で初めて、対極のイメージがある特定保健用食品(トクホ)の認定をとったキリンビバレッジの「キリンメッツコーラ」(480ミリリットル、税別150円)=写真左=だ。
トクホではよく知られた難消化性デキストリンという食物繊維成分を使い、食事の際の脂肪の吸収を抑える。4月の発売後2週間で年間販売目標100万ケースを達成し、2カ月で200万ケースを突破し、供給が追いつかないほどだ。
開発のきっかけは2007年に遡る。花王の「ヘルシア緑茶」をはじめとする茶系飲料でトクホがブームになるなか、キリンビバレッジはトクホの製品があまりなかった炭酸飲料に目を着けた。
需要を探るため、まず100人にアンケート調査を実施。無果汁で透明な炭酸飲料、果汁入りで透明な炭酸飲料、果汁入りで透明でない炭酸飲料、そしてコーラというリストの中からトクホで飲んでみたいものを選んでもらったところ、半数がコーラを希望するという意外な結果となった。ハンバーガーやピザなどのファストフードと一緒にコーラを飲みたいが、健康のために我慢しているという30代が多かった。
09年に試作品が完成したものの、味はおいしくなかった。改良にあたっては、同年発売の自販機専用飲料「キリンコーラ」(350ミリリットル、税別115円)=写真右=の開発での経験が生きた。コーラ好き20人への聞き取り調査で、好みの味の範囲が狭いことが分かっていたからだ。そこでメッツコーラは、飲み応えのある強炭酸で、コーラ特有の甘さが残る感じの味に改良することが決まった。
このように意外な組み合わせが市場を生み出す可能性を持つ。だが、当たり前だが意外性が高ければ高いほど、その組み合わせは思いつきにくいというジレンマがある。最初のアンケートにコーラが入ってなければメッツコーラは生まれなかった可能性もあるのだ。消費者はリストを見て、トクホのコーラができるのであればぜひ欲しいということでニーズが生まれ、支持したのかもしれない。ジレンマを超えるには、常識を疑う姿勢が不可欠である。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2012)「キリンメッツコーラ ― 意外な組み合わせ、市場生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年7月5日付け、p.9.