column 2012.7.26

「変身ミニカー ― 競合がもたらす新発想:バンダイ ブーブ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 強いライバルの存在が、新市場を切り開かせる可能性を示す。その好例が、バンダイの変身ミニカー「ブーブ」だ。

 ブーブは、年間10万個でヒット商品といわれる玩具市場で、2010年3月の発売から2年で累計200万台を販売した。タカラトミーの「トミカ」が市場シェアをほぼ独占していたミニカー市場に風穴をあけ、金額ベースで10%のシェアを獲得した。

 その背景は、08年秋に遡る。当時、ミニカー市場にどのように参入できるかが課題であった。社内のアイデアコンペで、自動車や新幹線などの乗り物がロボットに変身するというアイデアが出た。過去に似たようなアイデアもあって、コンペでは選ばれなかったが、それを契機に乗り物が何に変身すれば、面白くなるかが議論された。

 こうしたなか、乗り物から乗り物への変身というありそうでなかった意外な発想が生まれた。だが、一般的な乗用車から乗用車への変身ではインパクトがない。そこで、乗用車が働く車に変身するというアイデアに発展した。現実にも、パトカーは乗用車が変身したものであった。

 09年4月のネット調査から、未就学児は働く車をはじめ、自宅の乗用車や、実際の電車など「実車」に興味があることが分かった。そこで、子供がストーリーを描いて遊べるように、徹底的にリアリティーが意識され、現実にある自動車の変身が考えられた。例えば、日産自動車のフェアレディZが、栃木県警パトカーに変身するという具合だ。こうして、ブーブは意外性をもちつつも、極めて現実的な製品として誕生した。

 だが、競合製品と比べた意外性だけが重要だろうか。他社が独占する市場では、競合製品との共通性も必要となる。ほとんどの未就学児は、譲り受けたり購入したりして、トミカや車庫などの関連商品をたくさん持っている。

 バンダイが今年3月に発売した「ブーブ ファーストライド」は、幼児向けに簡単な操作で変身しやすくするため従来に比べて小さめのサイズにした=写真。その結果、トミカと同じくらいの大きさとなった。子供のコレクションに、ブーブが入れてもらえることは重要だ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「変身ミニカー ― 競合がもたらす新発想(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年7月26日付け、p.9.