ニーズあるいはシーズ(技術)、どちらを起点にしたら成功するか。マーケティングの古典的な課題だ。だが、そもそもシーズに適したニーズの基盤を創りだせれば、この問題は解決する。そんなうまい方法を実践するのが、統合的コミュニケーション戦略を企画するインテグレート(東京・渋谷)だ。
依頼企業のシーズを分析し、どういう切り口で捉えると需要創造ができそうかを検討することから仕事が始まる。定番となるターゲットの「消費者」だけでなく、「ソーシャル」(専門家やオピニオンリーダー)や「メディア」「流通」において、その切り口が受容されそうか調査する。4つの視点で複合的に需要を検証するのは特徴的だ。パスすれば、その切り口が確実にメディアに露出し、消費者が行動を起こす情報へと変化する可能性が高まる。まさに需要基盤がつくられる。
事例の一つが、2010年のワコールの「下着による体のエイジングケア」のキャンペーンだ。まず、ワコール人間科学研究所による女性の体に関する45年の研究=写真=や、それを基にした製品開発、店頭の販売員のもつ高い採寸フィッティング力をうまく生かせないかが検討された。こうしたなか、若い頃の体形を維持できている女性が、体形変化に応じて正しいサイズの下着を買い替えているという事実が分かった。だが、そうした女性は少ない。そこで「ブラジャーは測って買わないとダメ」という市場認識をつくり、「ワコールの店で測って購入する」という行動に誘導する計画が考えられた。
4つの視点で検証された。消費者には、その認識はなかったが、エイジングケアに興味が見られた。エイジングケアは専門家にも支持され、流通を担う店頭の販売員には、サイズが合っていないことが分かっても顧客に助言できないというジレンマが日ごろからあり好評価であった。メディアにも、取りあげる話題性が十分にあった。こうして好業績につながった。
だが、忘れてはいけないのは、市場は変化することだ。今までなかった自らのアイデアが市場に導入されたことで、需要基盤をダイナミックに変化させる可能性をもつからだ。4つの視点の微細な変化を、見逃してはいけない。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2012)「4つの視点 ― 「体形測り下着購入」促す(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年8月23日付け、p.9.