利用者の生活全体における行動の関係をみれば、新たな市場創造の可能性をもつ。その好例が、ライオンが実践する「観察法」である。
同社は利用者に密着して、その生活行動の全体を観察している。そのため1回の観察は、6時間にもわたる。
未就学児をもつ30代主婦の自宅に訪問した調査では「散歩後は汚れていなくても子供の服を丸ごと着替えさせる」あるいは「外出の多い夫の衣類は分別して洗濯する」といった目に見えない汚れに対する衛生意識の高い主婦の行動がみえてきた。
ところが、その主婦は「便器で子供が遊んでいても何も言わない」というような一見、衛生意識とは矛盾する行動もしていた。家は安全であり、外には危険があるという感覚だ。つまり、単に衛生意識というだけでなく、家の「内」と「外」との明確な線引きをしていて、外部の脅威から「家族を守る」「予防する」という意識がみられた。
こうした行動は極端にみえるかもしれないが、同社はこうしたエクストリームユーザー(極端な利用者)を対象に、その行動全体を観察し、行動間の関係を理解することこそが新たなヒントをもたらす可能性が高いと考えている。平均的な利用者では気づかない不満や問題をもっていて、新たな生活様式の潮流や近未来のニーズをもつかもしれないと考えるからだ。
こうした観察法の成果の一つとして、洗うたびに抗菌力が高まる超コンパクト衣料用液体洗剤「トップハイジア」が生まれた=写真。7月の発売以来、計画を5割も上回り好成績を上げる。今までも抗菌力をもつ製品は販売されていたが、繰り返しの洗濯により抗菌力を高めることで予防意識や安心感に応える。
このように、生活全体の行動の関係をみる観察は、新しい市場創造のヒントとなる。だが、従来のカテゴリーを横断する開発が求められる可能性があり、それに応じた柔軟な開発体制が必要となるかもしれない。外部から家族を守るという視点は、衣料用洗剤の課題だけでは収まらないからだ。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2012)「ライオンの観察眼 ― 極端な利用者からヒント(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年9月13日付け、p.9.