column 2012.10.25

「手段が目的を生む ― チケット販売から新イベント:PeaTix(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 新しい市場を創造する際にその方法を考えるのは、一般的だろう。つまり、目的があって手段がある。だが、手段が目的を生み出すこともあり得る。方法があるから、新しい市場が生まれるというのだ。その好例が、Orinoco Peatix(東京・渋谷)が運営するチケットサービス「PeaTiX」だ。

 昨年5月のサービス開始以来、3500以上のイベントを支援してきた。イベント作成から出欠・入場管理、代金回収までの煩雑な作業を簡易にできる。ミニブログのツイッターや交流サイト(SNS)のフェイスブックを通し友人に告知したり、そのアカウントでログインできたりするなどソーシャルメディアとも連携。従来のチケット販売が専門家主催の大規模な市場向けであるのに対し、素人の主催、あるいは専門家主催の小規模な市場を狙う。

 イベント作成から出欠・入場管理までは無料で、代金回収を利用する場合には受注1件当たり6%+70円の手数料が必要。費用はかかるが、事前に回収できてキャンセルのリスクに対応できる。通常、フェイスブックを通した有料イベントは1~5割の急なキャンセルが入り、主催者は会場や飲食代金の問題で苦労するケースが多いからだ。

 OL2年目の市岡麻美さんは、たった1人で「100人の女子会」という女性ゲストを招いた講演会を開いた=写真はサイト画面。市岡さんは「こうしたサービスがなければ実現できなかった」という。

 他にも、主催者が企画を決めた2週間後に無事300人規模のイベントが開かれた事例や、チケットだけでなく物販や寄付も同時に募集する事例もある。こうした迅速な募集も複雑な対応も、従来のチケット販売では対応できなかったことだ。まさに、ツールが新しい市場を創造したのだ。

 手段が目的を生み出す。簡易な手段を提供することは、新市場創造に向け意義がある。だが、目的からみた手段は決して一つではない。生み出された市場が他の手段を使う場合もありうる。同社が今後予定しているようなイベントを盛り上げる、「その手段しかない」と思える顧客との関係づくりが大事になる。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2012)「手段が目的を生む ― チケット販売から新イベント(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2012年10月25日付け、p.9.