観察法は、革新的な市場創造に導く。その好例が、バンダイの玩具付き菓子、いわゆる食玩の「超変換!!もじバケる」(105円、ガム1個付き)=写真=だ。
2010年5月の発売以来、販売数は1000万個を突破。10万個が売れればヒットという玩具市場で際立つ数字だ。デザインも評価され、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品となっている。
親戚の小学生男児が「龍」という漢字を書きつつ「格好良い」と話している光景を開発担当者が観察したことに端を発する。道具として見ていた漢字が、男児の目にはそう映ることに驚いた。
その後、毎週開くチーム会議でアイデアの一つとして漢字が挙がる。そもそも漢字はその成り立ちとして象形文字も多い。一文字の漢字が、その意味の動物に変形するというアイデアに発展した。
最初は完全変形(パーツを外さず変形)を検討したが、より動物らしく見えるよう、パーツをばらして組み替えて変形することにした。漢字を格好良くしている特徴的な部分を、変形後もそのままの形で残した。
組み替えは意図していなかった効果を生む。漢字の学習だけでなく、パズルにもなり、安価であるが時間をかけて遊べる知育玩具となった。「犬」と「虎」の試作品を作り、パソコンでは文字を変換ということから「超変換」と名付けた。
「格好良い」は、さらに追求される。昨年2月に発売した「超変換大戦もじバケるG」(158円)では、中高学年の男児への調査によって「爆」や「妖」など購買層が格好良いと思う漢字を選び、ドラゴン(竜)などの空想上の獣に変形するようにした。対戦できるカードを付け、小学生向け漫画雑誌「別冊コロコロコミック」での連載も始めた。
さらに観察がコンセプトに磨きをかける。売り場で残りがちだった「熊」のことを男児らは「熊に見えない」と会話していたのだ。格好良さと同時に、そのものの形に見える重要性を再認識する。
だが、観察は答えを提示するわけではない。文字通り、消費者の目線で観(み)て察することが肝要なのだ。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2013)「食玩『もじバケる』 ― 観察は革新的創造の元(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年1月31日付け、p.9.