column 2013.3.14

「ケアプロの簡易健診 ― 対話重視、新たな価値生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 誰かに見守ってもらえる。顧客にこう思ってもらえるサービスは、新しい市場を創造する可能性をもつ。その好例が、簡易健康診断サービスのケアプロ(東京・中野)だ。

 保険証や予約は不要で1項目の検査が500円からできる。10分程度で結果が分かるので、昼休みや帰宅時に気軽に検査できる。サービスを知ってもらうため、常設店舗だけでなく、駅や高速道路のサービスエリア、パチンコ店など多くの人が集まる場所に出張して検診する。2007年の創業以来、検査数は累計12万件を超える。

 サービスの主な対象は定期的な健康診断を受けにくい主婦やフリーター、自営業者、外国人だ。日本では生活習慣病が医療費の約3割を占め、死因の約6割にも当たるが、「過去1年以上健康診断を受けていない人が3300万人もいる」と同社は推定する。

 血糖値や中性脂肪の測定など血液が必要となるメーンの検査では、顧客が自ら採血する。採血といっても、使い捨ての針を軽く指に刺すだけで簡単だ=写真。検査は看護師がサポート。医師法により採血はできないが、試料を検査機器に通し、結果の説明や日常生活のアドバイスをする。

 自己検査であれば、自宅で検査してもよいという発想もあるかもしれない。だが、看護師とのコミュニケーションが新たな価値をもたらす。

 ある顧客は定期的に検査を受けて肥満を解消し、その後も継続して通っている。自宅でもできるが「看護師が見守ってくれ、コミュニケーションできることが大事だ」。体重が戻るリバウンドも、それで乗り切れたそうだ。パチンコ店で開く出張検診サービスでも、定期的に検査に通う顧客がいる。

 定期的に実施することに意義があるサービスでは、継続が重要だ。コミュニケーションはそのカギとなる可能性をもつ。同社は看護師が情報を発信するメールマガジンも始めるなどコミュニケーション強化に知恵を絞る。マンパワーだけでは限界もあるなか、データベースによって顧客の検査状況を管理し、顧客によって配信内容も変えている。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「ケアプロの簡易健診 ― 対話重視、新たな価値生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年3月14日付け、p.9.