column 2013.4.4

「ご当地キャラ『くまモン』 ― 意外性の連続、新市場生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】(C)2010熊本県くまモン

【図・写真】(C)2010熊本県くまモン

 意外性が話題を呼び、ニュースを生み出し、新市場を創造する。その好例が熊本県のPRキャラクター、「くまモン」だ。

 2011年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業で、通過地点とならないよう熊本をPRしようと10年3月に生まれた。名前は熊本と、者を「もん」と発音する方言が由来。新幹線を使うと移動がほぼ3時間圏内となる関西・中国地方の客を対象とした「KANSAI戦略」から始まった。

 取り組みは意外性の連続だ。1つに、人が多い観光名所に出没する。キャラクターが登場するのは通常はイベントなどに限られるが、多くの人が大阪城や通天閣などいたる所で遭遇する。出会った人が交流サイト(SNS)に投稿すると、くまモンもその場の情報をブログやミニブログのツイッターで発信した。

 2つめに、キャラなのに名刺を配る。「大阪の人には、熊本がオススメ!(なんとなくですけど)」などシャレの利いた文を入れコミュニケーションをとる。

 3つめに、意外なストーリーをもつ。県知事から名刺1万枚配布という指令を受けたくまモンが大阪に失踪したと設定。その捜査のため多くの人がSNSに投稿し、話題を広げた。

 4つめに、熊なのに俊敏な動きをする。熊という動物のイメージとは異なり、活発に動き回る。

 新幹線開業に加えてくまモンの活動が功を奏し、11年の県内の宿泊客数は東日本大震災後の自粛ムードの中でも前年比9%増。同年11月にはインターネット投票の「ゆるキャラグランプリ2011」で1位を獲得しPRに弾みがついた。一連の仕掛けを県が企画し実施するのもユニークだ。3月の誕生祭では地元出身の森高千里さんが歌うイメージソングも披露された。

 だが内部の知恵だけではアイデアは枯渇する。くまモンの場合、熊本のPRにつながる商品であると県が認めればキャラクター使用料は無料だ。12年の関連商品の売り上げは293億円を超え、使用許諾は今年1月末で8200件に達した。3月には第一興商が業務用通信カラオケシステムでくまモンの映像と楽曲を配信した。こうした共創で新たな意外性が生まれ、ニュースが継続する。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「ご当地キャラ『くまモン』 ― 意外性の連続、新市場生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年4月4日付け、p.9.