column 2013.6.13

「キャンパスノート(プリント貼付用) ― 消費の軌跡探り実用的に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 消費の軌跡。使い終わった商品を見れば、新市場創造の可能性が分かる。その好例が、コクヨS&T(大阪市)の「キャンパスノート(プリント貼付用)」だ。

 同社では、他社商品を含めて、ユーザーが使い終わった100冊ほどのノートを定期的に収集している。こうした使用済み商品の観察で、プリントがノートからはみ出ていたり、はみ出ないようにプリントを切ったりと、その貼り付けにユーザーが苦労している実態が分かった。市販されているB5判サイズノートが、実際のB5判サイズより少し小さいからだ。

 商品の観察だけでなく、開発担当者は学校の参観日での観察や、子供の話から、中学・高校では、配布したプリントに学んだことを書き込み、ノートに貼って管理するように指導していることを把握していた。

 さらにウェブ調査で、中高校生の9割以上が授業でプリントを配布されていることが判明、別の調査では、46%がプリントをノートに貼って管理していることも分かった。だが、ノートで管理している82%もの生徒が、切るのが面倒などの不満を抱えていた。

 こうしたプロセスを経て、B5判サイズのプリントを切らずに、きれいに貼れるよう、紙の四隅に貼り付け目印を表示した、大きめのサイズのノートが開発された。他にも、ノートのとじた部分から少し離れた位置にプリントを貼るようにすることで、かさばりを抑えるなど、さまざまな工夫が凝らされている。

 2009年に発売され、大きな市場にまでは至ってはいないが、書くだけのノートから、管理するノートへと、その在り方を大きく変えた商品である。環境に応じて、ノートの在りようも変わるのだ。

 もちろん、消費の軌跡を見るといっても、食べ物のように、使用したら消滅するというものも多い。だが、その使用済みパッケージなどを確認できるものもある。大事なことは、入手できる消費の軌跡から、ユーザーの使用法や用途変化の流れを把握する工夫だ。同社の例であれば、それが使用済みノートの定期観察だ。(法政大学経営学部教授)

 西川英彦(2013)「キャンパスノート(プリント貼付用) ― 消費の軌跡探り実用的に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年6月13日付け、p.9.