column 2013.7.4

「カネボウのアイライナー ― 継続的観察で変化つかむ:KATE(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 継続的な観察で微細な変化をつかむ。当事者にとって振る舞いの変化は、徐々に変わってきているため、気づきにくい。だが、第三者が継続的に観察すれば、新市場創造につながるアイデア発見の可能性をもつ。その好例が、カネボウ化粧品の「KATE スーパーシャープライナー」=写真=だ。

 KATEは1997年に誕生したメーキャップ化粧品のブランドだ。同社によると、セルフ販売のアイライナーではトップシェアを誇り、それをけん引するのが、2003年に誕生したスーパーシャープライナーだという。

 その商品開発は00年の行動観察がきっかけだった。メークが好きなトレンドセッターの女子高生6人を対象に、流行っているアーティストやファッションの写真、化粧ポーチを持参してもらい、グループインタビュー形式を取りつつ、そのメークやファッションの変化を1年にわたり毎月、観察した。

 当初、彼女たちは、太いアイラインを入れて、とにかく目を大きく見せようとしていた。彼女たちの周りには、目を大きく見せるために油性マジックを使うという猛者もいたという。こうした傾向は、当時のメークの流行とも一致していた。

 だが、観察を続けていると、彼女たちが単に目を大きく見せるのではなく、きれいに見せようと徐々に変化していることに気づいた。きれいに見せるために、細いアイラインを入れようと、メークを工夫していたのだ。

 こうした観察から、きれいな細めのアイラインを簡単・自在に描けるような、極細の筆ペンタイプのリキッドアイライナー、というアイデアが生まれた。当時、筆ペンタイプのアイライナーには、太いラインが描けるものはあったものの、細身のものはなかったのだ。

 継続的な観察では、顧客の気持ちに入り込み「共感」できることが重要だ。だが、同化しすぎると、顧客と同じように常識化してしまい気づかなくなる。共感しつつ、客観視するという「分析者」の視点が不可欠だ。(法政大学経営学部教授)

 西川英彦(2013)「カネボウのアイライナー ― 継続的観察で変化つかむ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年7月4日付け、p.9.