ユーザーコミュニティーが、新たな市場を創造する。その好例が、カカクコムが運営する飲食店検索サイトの「食べログ」だ。
開設は2005年。当時すでに「ぐるなび」という大手飲食店検索サイトがある中、「ランキングと口コミで探せるグルメサイト」としてスタートした。後発にもかかわらず、現在は全国75万店の飲食店情報、460万件の投稿口コミ数と膨大なコンテンツ量を誇り、月間4800万人のユーザーが利用するサイトに成長した。
ぐるなびが掲載料を支払った飲食店の情報に限定していたことや、飲食店に配慮してランキングがつけられなかったのに対して、食べログはユーザー(レビュアー)が自由に飲食店の情報を投稿し、口コミで評価できた。人気のある飲食店の情報を共有するという、新たなコミュニティーをつくり上げたことが、成長の大きな要因となった。
とはいえ現在、食べログでは、広告と分かるように表示があるものの、飲食店からの店舗情報も掲載され、ぐるなびのモデルに近づいているように見える。まさに食べログの収益の50%が、飲食店からの広告収入であり、残りが有料会員と店舗への予約紹介による収入だ。とりわけ、当日空きのある店舗を予約できるサービスは利用者から大きな支持を得ているという。
ただ、食べログでは、こうしたサービスを導入しつつも、広告主や予約できる店舗も口コミによる評価の対象とされ、ユーザーによるコミュニティーをベースにするという前提は守られている。
さらに、こうしたコミュニティーはユーザーだけでなく、評価される店舗も交えて広がりを見せる。かつて、食べログでは、飲食店が高評価を業者に依頼するという「やらせ投稿」により、評価の信頼性が大きく揺らいだ。そのため、監視など多様な手法で対策を講じているが、最も効果的なのは、不正を許さない飲食店からのやらせ業者の通報だという。コミュニティーは、市場を創造するだけでなく、自ら市場をも守るのだ。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2013)「食べログ ― ユーザー評価が市場創造(西川英彦の目)」『日経産業新聞 』2013年8月22日付け、p.9.