column 2013.10.24

「ハッピーターンの直営店 ― 偶然の産物を仕組み化(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 偶然の産物を仕組み化すれば、新市場創造のカギとなる。その好例が、亀田製菓(新潟市)が昨年10月、阪急うめだ本店(大阪市)のリニューアルに合わせてオープンした初の直営店「ハッピーターンズ」と、そこで限定販売している同社の主力商品「ハッピーターン」の高級版「ハッピージョイ」のケースだ。

 「亀田製菓ならではの商品を大阪・梅田発の土産物として販売してほしい」という百貨店からの依頼を受け、約1年かけて準備してきた。

 そもそもハッピーターンは、「ハッピーパウダー」と呼ぶ甘じょっぱい粉をまぶした煎餅で、1976年発売以来の人気のロングセラー商品だ。そのハッピーターンをベースに、抹茶や木いちご味などの7種類の味のハッピーパウダーをぜいたくにつけたのが、ハッピージョイである。

 味は季節によって変えられ、単品や詰め合わせのギフトボックスとして販売される。1日500人から900人が購入し、すでに売上高は約10億円にのぼる。オープン当初の4時間待ちの行列はなくなったものの、1年たった今でも30分は待たないと買えない人気ぶりだ。ここでしか買えないという希少性もあるだろう。

 こうした集客力を見て、新たな発想につながった。同店舗を、通常のハッピーターンのテストセールの場として利用したのだ。単品のハッピージョイとしての売れ行きを基に、ハッピーターンの新商品として開発された。人気店舗の売れ筋ということもあり、流通企業の説得もしやすく、多くの店舗での展開が可能となる。

 その第1弾が、9月に発売したメープル味で、秋の期間限定(3カ月間)商品だ。販売目標15万ケース(1ケース12袋入)に対して、初回出荷で10万ケース超える売れ行きとなった。好調なため、販売延長も検討される。

 このように、外部からの偶然の依頼から始まった話が、定番での売れ筋商品を開発するという仕組みになった。このことは、1店舗だけの商品を開発する意義を与え、同店舗に魅力ある限定商品を絶えず供給できることになる。この循環が、相乗効果をもたらす仕組みとなるだろう。(法政大学経営学部教授)

 西川英彦(年)「ハッピーターンの直営店 ― 偶然の産物を仕組み化(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年10月24日付け、p.9.