column 2013.11.14

「アウトドア用品 ― 過剰品質、新たな顧客獲得:スノーピーク(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】スノーピークのアウトドア用品

【図・写真】スノーピークのアウトドア用品

 過剰品質が新市場を創造する。一般的に過剰品質は否定的に語られ、肯定的には受け取られない。しかし、アウトドア用品のスノーピーク(新潟県三条市、山井太社長)は、過剰とも取れる品質の商品を提供することで成長を続けている。

 とりあえずキャンプを楽しむのであれば、ホームセンターやディスカウント店で、輸入品のテントを数千円からで購入できる。しかし、テント泊を繰り返すのであれば、暴風雨に遭うこともあるかもしれない。同社のテントは3万円から8万円と、手ごろな品に比べて数倍するが、耐久性を心配せずに使用できる。

 テントを固定するくい「ペグ」は、1本数十円のプラスチックかアルミ製のものが、テントに付随している。だが、時には土中の大きな石や草木の根などに阻まれ、ペグが刺さりにくい場所での設営も必要となる。同社のペグは1本347円するが、火入れした鉄をたたいたもので、その鋭さは折り紙つきだ。

 独自の永久保証制度もある。仮に損傷しても、大抵の場合は次の週末のキャンプに間に合うように2日間で修理される。また、全ての商品が洗練されたデザインで統一され、まるでインテリアのようだ。こうしたことも、一般的には過剰品質と見なされるだろう。

 長く愛用されるものに、過剰品質はない。こうした同社の商品やサービスが、優雅に快適にキャンプを楽しむ新たな顧客層を取り込む契機となったことが分かるだろう。同社の提案以前に、こうした市場が現前とあったわけではないのだ。

 だが、提案だけでは、市場創造につながらなかったはずだ。同社は年に9回、各地でユーザーを招いたキャンプイベントを開催している。1度に参加するのは120組計500人程度。ユーザー同士が使用スタイルを共感し、互いを参照しつつ、新たなキャンプ市場を支え合う。

 さらに、イベントには同社の社長をはじめ社員が交代で参加する。多数の参加者の、多様なキャンプスタイルを観察、ユーザーの潜在ニーズを基にした開発につなげている。こうした取り組みが市場創造に拍車をかけているのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「アウトドア用品 ― 過剰品質、新たな顧客獲得(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2013年11月14日付け、p.9.