column 2014.7.24

「小型テープのり ― 使い方調べ収納に着目:ノリノ ビーンズ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 収納時の状態が、新しい顧客価値を創造する可能性を持つ。その好例が、文具大手、プラスの使いきりタイプの小型テープのり「ノリノ ビーンズ」(税別180円)だ。2012年3月の発売以来、小中学生を中心に人気を集め、13年は前年比1・7倍の売り上げだったという。

 開発は11年5月に実施したモニター調査に遡る。同社の交換式スティックタイプのり「ノリノ」を中高生男女約200人に2週間、使ってもらい、新製品のためのアンケートを行った。

 調査結果によると、のりの利用頻度は、週2~3回が39%、週4~6回が28%を占めた。55%がのりを常時持ち歩き、「時々」との答えも34%に上るなど、携帯率も高かった。用途では63%が「ノート添付」と回答、授業で配られたプリントをノートに貼る学習向けが圧倒的に多かった。

 テープの最適幅をたずねたところ、「6ミリメートル」が45%を占めた。これは、標準的なノートの罫(けい)と同じ幅であるため、まっすぐ貼りやすいからだ。

 ノリノの不満点としては、そのサイズが挙がった。交換式の機構を持つため、高さは105ミリメートル。生徒は、ペンケースに入る大きさを望んでいた。さらに、「蓋がなくなりそうで心配」という声もあった。蓋一体型商品もあったが、蓋が開きやすくゴミが入り込みやすいという問題があった。

 また、生徒が交換式タイプを強く望んでいないことも分かった。交換タイプのペンや修正テープでも、実際には交換してないことも多いからだ。交換する前に飽きたり、汚れたり壊れたりするためだという。

 こうした調査結果を踏まえて、「ノリノ ビーンズ」が誕生した。豆(ビーンズ)をモチーフにしたデザインは、高さ58ミリメートルとペンケースに収納しやすいサイズで、手にもしっかりフィット。カラフルな本体色はまるで雑貨のようだ。テープ幅もノートの罫に適した6ミリメートルとした。

 テープのりを貼り付けるヘッド部分は使用後、ノブをスライドさせるだけで本体ケースに出し入れできる。ヘッド部分の収納と連動して蓋がスライドし、しっかりと閉まるので、ゴミやほこりが付きにくい。

 こうした仕様は、従来の自宅で利用し、引き出しにしまうことを前提としていては考えられなかったことだろう。ペンケースに収納し携帯するのりだからこそ、生まれた顧客価値だ。使われ方が変われば、収納も変わり、顧客価値も変わるのだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「小型テープのり ― 使い方調べ収納に着目(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年7月24日付け、p.15.