「因果」の反転。それが新市場創造の可能性を持つ。プロ野球独立リーグ、四国アイランドリーグplusの「徳島インディゴソックス」はその好例だ。
四国アイランドリーグは、元オリックスブルーウェーブ監督の石毛宏典氏によって2005年にスタートした。社会人野球チームの減少などで、野球選手への夢を捨てざるを得ない若者にチャンスを与えるだけでなく、野球による地域の活性化がその狙いだ。つまり、野球が地域のつながりを強化するというわけだ。
だが、その実現はたやすいものではなかった。リーグに加盟する4球団の1つ、徳島インディゴソックスは、集客や資金集めに苦労し、10年には大口スポンサーが撤退。球団は苦境に立たされた。
11年に弁護士から転身して球団代表に就任した坂口裕昭氏がめざしたのは、「原因」と「結果」、すなわち「因果」の反転だ。チームが地域を活性化するのではなく、地域と「つながる」ことが、野球という市場を創造するというのだ。
チームから積極的に地域とのつながりを求めた。野球教室や学校訪問、登下校時の見守りや祭りへの参加、県産品のPR、清掃、募金――といった地域貢献活動だ=写真。坂口氏の就任前、10年に30回だったものが、13年は213回にも及んだ。
スポンサーも年間1000円から受けつけるようにした。小額でも支援してもらい、つながりを感じてもらう工夫だ。「球団に来てもらうだけが、応援ではない」と坂口氏は話す。09年に70社4900万円だったスポンサー収入は、13年には477社7120万円となり、年間売上高の70%を占めるまでになった。
選手の給料は月額12万~15万円にとどまるが、代わりに監督やコーチ陣を充実して、若手を育てるという方針だ。その結果、09年に最下位だったチームが、11年と13年にリーグ優勝を果たし、2人の選手をプロ野球に送り込んだ。
こうして、単年度黒字には若干及ばないものの、年間キャッシュフローをプラスにし、安定的な球団運営に向けて着実に前進を続けている。地域とのつながりが、野球という市場を成立させるのだ。
さらに坂口氏は「地域密着だけでなく、外へ向いた地域振興で、地域を活性化したい」と語る。つながりで生まれた野球市場が、新たなつながりをもたらす契機となる。この循環発想が市場を発展させる。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2014)「『野球で活性化』は逆 ― 地域とつながり市場育つ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年6月5日付け、p.15.