得意なプロセスでの共創が新市場を創造する可能性をもつ。その好例がマーケティングを学ぶ大学生が新商品のアイデアを競う「スチューデント・イノベーション・カレッジ(Sカレ)」だ。8回目の昨年は28大学の3年生428人が参加、実際の商品化をめざした。
Sカレは、半年を超える商品企画プロジェクトだ。まず5月、協力企業から商品企画のテーマが提示される。6月の開会式での企業とのワークショップを経て、学生がアイデアをインターネットで公開、消費者からの評価などを基に改善を重ね、11月の閉会式で各社に提案する。企業はアイデアを1つ選んで商品化を検討。試作品を作製してネットで予約を募り、最低生産単位に達すると発売する――という流れだ。
しかし実際には発売に至らないことも多かった。アイデアが良くても、細かな仕様の詰めが不十分だったからだ。うまく予約に進んだ場合でも、デザインなどの問題から販売で苦労することが少なくなかった。
こうした反省から今回、幾つかの点で大きく進め方を改めた。消費者からの寄付募集と、デザイナーの導入だ。商品化の対象も、閉会式までに資金を調達できたアイデアに絞った。この結果、従来の6倍を超える33商品が生まれる予定だ。
中には、すでに発売が決定した商品もある。ビニール加工の岡村(神戸市)が1月末に発売するファイル「はーふる」(708円)だ=写真。法政大学のチーム「おとめンタル」によるもので、収納できる書類のサイズにとらわれず、自由にかばんを選びたいという学生視点のアイデアだ。
学生は7月にアイデアをサイトで公開。試作資金を集め、デザイナーの桑野陽平氏に仕様の設計を委託した。この仕様を基に、岡村が試作品を作製、10月末からの予約を募ったところ、学生のSNS(交流サイト)などを使った販促も奏功、1カ月間で240個の受注を獲得した。まさに、それぞれが得意とするプロセスでの共創の成果だ。
だが得手不得手は、環境や学習で変化する。プロセスを俯瞰(ふかん)し、見直し続けることが、市場創造の可能性を高めるだろう。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2014)「新商品競う「Sカレ」 ― 学生・企業が共創、新市場生む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年1月9日付け、p.9.