column 2014.6.26

「全社マーケティング ― 部門間で補い迅速に:日清食品(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 全ての関係部門によるマーケティング。それが、新市場創造の可能性を持つ。その好例が、日清食品が2013年4月に始めた、商品化決定から3カ月で発売する「ハイスピード・ブランディング・システム」だ。

 従来は、商品化の決裁の後、製品開発や原価計算、製造ラインの確保、機械発注などを実施。それらにめどがつくと、市場予測や資材調達、広告などを取りまとめ、発売を正式決定するという2段階の決裁方式だった。発売までは3カ月から10カ月。新設備が必要だと1~2年もかかる場合もあった。

 いわゆる、製品開発プロセスの常道である、多段階で判断する「ステージ・ゲート・プロセス」だ。開発プロセスが進むにつれて上昇するコストを、段階的な判断でリスク回避する。だが、競争の激しい市場では、これでは間に合わない。

 このため同社は、例外なく商品化の決定後、3カ月以内の発売をめざしている。責任者は40歳代のブランドマネジャーが務める。

 もちろんマーケティング力を発揮して、推進していくだろう。だが、それだけでは短縮できない。資材部や技術開発部、生産本部など17もの部門のサポートがカギとなる。ただ、50歳代のベテランが多い各部門の責任者には、ブランドマネジャーの提案が不十分に見えてしまい、差し戻すことも少なくなかった。うかつに判断すると、調達資材の変更やライン改造などのリスクがあるからだ。

 そこで、各部門にも、マーケティング力を求めた。ブランドマネジャーからの正式な依頼や決裁後に動き始めるようでは、間に合わないからだ。市場の動きを予測して、正式決定の前から準備することを促した。まさに、全ての関係部門がマーケティングを行い、部門間で補いながら、次の一手を先んじて打っていくというスタイルだ。

 さらに評価も、連帯責任に改めた。達成時は年俸を最高でプラス15%引き上げ、未達時は最大でマイナス15%引き下げる。加えて、事前予測で準備を完了できた者や、購入資材の転用方法や転売先まで手配できた者には5%を上乗せする。

 「スタッフがポジティブに考えるようになってくれたのは非常によかった」と日清食品ホールディングスの安藤宏基社長は語る。「今、こうした実験をいくつも進めています」といい、挑戦はさらに続く。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「全社マーケティング ― 部門間で補い迅速に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年6月26 日付け、p.19.