【図・写真】マクアケのホームページ
新奇性のジレンマ。斬新なアイデアや新規事業は、企業の将来の成長に向け重要であろう。一方採算性が不透明でリスクが高いと判断され、事業化されにくいこともある。
そのためには企画段階で小口資金を募るクラウドファンディングが有効だ。手がける企業は多いが、インターネットで仲介するサイバーエージェント・クラウドファンディング(東京・渋谷)の運営する「Makuake(マクアケ)」の手法には参考にすべき点が多い。
2013年8月の開始より約3年で、約2000プロジェクトが累計15億円の資金を調達した。ソニーや東芝、JVCケンウッドのような大手企業の新規事業から、個人のモノづくりやカフェオープンまで、多様なプロジェクトが見られる。平均106万円を調達し、1千万円以上集めたプロジェクトが33件にも上る。調達できると、完成後に商品やサービスが支援者に提供される場合が多い。
だが、申請すれば誰でも掲載されるわけではない。まずマクアケの約10人のキュレーターが、プロジェクト申請者と直接あるいはスカイプで、1~2時間は面談する。「審査の基準は、売れる売れないという判断よりも、商品がきちんと製造され届くかどうかなどの実現性を重視する」と、サイバーエージェント・クラウドファンディングの木内文昭取締役は言う。
実現可能性を確認した上で、支援者であるユーザーにとって分かりやすく説明されているか、事業全体のビジネスモデルがしっかり考えられているかが問われる。つまり、この段階でいわゆる企画書としての水準が確認されているのだ。
申請のうち、約半数以上が掲載に至る。申請の中には、単にアイデアや問い合わせだけのものも含まれるので、実質的な掲載率はもう少し高くなる。
サイトに掲載され目標資金調達に成功するプロジェクトは8割強だという。だが、成功率が高ければ良いというわけではない。「チャレンジすることが大事。仮に達成しなくても再挑戦できる空気感をつくることが重要だ」と木内取締役は説明する。新奇性を担保するには、健全な失敗率が伴うというのだ。
こうして実現可能性と市場性という2段階での判断を通して、新奇性のジレンマを克服している。
企業の新規事業や新製品開発においても、こうした2段階の判断基準をもつことは重要であろう。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2016)「新奇性のある事業 ― 実現性・市場性で判断(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2016年11月17日付け、p. 21.