column 2013.5.23

「寄付募集サイト ― 個人への応援、社会貢献に:ジャスト・ギビング(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 

 個人の目標が全体の目標につながる有効性は、何も企業だけのものではない。個人的な目標が、社会全体に貢献する目標につながる寄付の仕組みがある。その好例が、英国生まれの寄付募集サイト「ジャスト・ギビング」だ。日本では2010年に活動を開始。一般財団法人ジャスト・ギビング・ジャパン(東京・渋谷)が運営する。

 支援する団体などへの寄付を募るために、呼び掛け人が何らかの目標を設定して挑戦、その趣旨に賛同した人が任意の額を寄付する仕組み。サイト上のカード決済などで簡単に募金でき、寄付金から手数料などを除いた金額が支援先に入る。挑戦の内容や応援のコメント、寄付先や金額もサイトで公開される。

 社会貢献のために新しい挑戦を始めるというだけでなく、ダイエットや禁酒禁煙、資格試験など、普段の個人的な目標でも十分だという。多くは呼び掛け人の友人や知人の小額寄付であり、その寄付や経験が全体につながっていくからだ。

 日本ではこれまでに、830のNPOを支援先とした5400の挑戦に対して、9万5千件、総額10億円の寄付が集まった。

 走ることで寄付を集める「チャリティーマラソン」では、ロンドンマラソンと本国のジャスト・ギビングが03年から提携、昨年は67億円の寄付が集まった。著名な大会のため、市民ランナーの参加枠は限られる。しかし、チャリティーマラソンをすれば、ほぼ確実に参加できる。ランナーとして参加できる上、多く知人に応援され、社会貢献のために走ることができる。

 ジャスト・ギビングに入る手数料収入の半分は、ロンドンマラソンの運営資金となるという。こうして関係者それぞれにメリットをもたらし、自然と寄付する文化も根づいていく。

 では、冒頭に戻って、この事例は企業にとってどのような示唆があるのだろうか。企業では、全体と個人の目標はより直接的な関係になるだろうが、本事例のように周囲から応援されていることが見えることは重要だろう。応援される実感があるからこそ、多少難しい挑戦も頑張れるのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2013)「寄付募集サイト ― 個人への応援、社会貢献に(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2013年5月23日付け、 p.9.