column 2013.12.20

「カテゴリー創造(上) - 機能絞り 分かりやすく:ノンフライヤー(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【図・写真】最高セ氏200度の熱風を高速で対流循環させる技術で、油を使わず食材を揚げることができる<br />

【図・写真】最高セ氏200度の熱風を高速で対流循環させる技術で、油を使わず食材を揚げることができる

 フィリップスの日本法人、フィリップスエレクトロニクスジャパン(東京・港)が4月に発売した油を使わずに揚げ物ができる調理家電「ノンフライヤー」は20万台を超える勢いだ。当初の初年度5万台の目標を大きく上回るヒットとなった。

 実は、海外では「エアーフライヤー」の商品名で売られている。熱風を高速循環させて素材に熱を行き渡らせ、調理する技術「エアーフライング・テクノロジー」を表現した。揚げ物だけでなくグリル、ロースト、照り焼き、オーブン焼きなど多様な調理ができる。

 2010年の発売以来、世界100カ国以上で累計150万台超を販売した人気商品。フィリップスは09年に撤退した日本のキッチン家電市場への再参入第1弾として検討していた。マーケティングマネージャー、佐野泰介氏は導入の経緯をMJヒット塾研修でこう講演した。

 「まず日本市場を概観した。特定保健用食品をはじめ、ノンフライ麺、ノンフライポテトなどノンフライやノンオイル、カロリーオフ、糖質ゼロといった健康を意識した商品が売れていた。一方、外部調査によると日本は揚げ物を食べる頻度が高い。ターゲットとなる主婦には、家族に揚げ物を食べさせてあげたいが健康は心配というジレンマがあることが分かった」

 エアーフライヤーは素材が持つ油を使って揚げ物を調理でき、このジレンマに対処できた。市販の揚げ物は「カロリーが気になる」ことや調理に伴う「準備、片付けが面倒」「安全性への懸念」「既存の電子レンジなどの機能では仕上がりに不満」「揚げるタイミングなど難しさ」といった課題でも優位性があった。

 そこで、マルチ調理器として売るのではなく、単機能に特化し「ノンフライ調理家電」と位置づけた。消費者にはこの特長で理解してもらい、新たなカテゴリー創造を狙うことにした。理解しやすいように名称を「ノンフライヤー」に変えた。

 そのため、自社からの情報発信を「油を使わない」に絞りこんだ。レシピも75%を揚げ物にして一貫性をもたせた。

 消費者調査で「本体だけを見て説明を受けても買おうと思わない」「実際に調理されたものを見たら興味がわく」と分かり、調理や疑似体験ができるテレビ通販、実演販売できるチャネルや動画を活用。発売する前から話題が先行した。

 日本でもヒットしたのは、すでにあるノンフライという市場知識を利用し、それと製品を分かりやすく結びつけた結果、カテゴリー創造がしやすかったからだといえる。

 だが、中小メーカーが類似品を発売している。それらは日本市場により適したもののようにみえる。大手が電子レンジなどの揚げ機能を向上させる可能性も高い。

 では、あなたが責任者ならどうするだろうか。MJヒット塾研修では、参加者はそう問われる。当事者意識で多様な戦略を考えるリアリティーが同塾の意義だからだ。その戦略の多さが、予期せぬ市場への打ち手のアイデアとなるのだ。

キーワードプラス

【カテゴリー創造】市場の既存製品にはない新たな軸(カテゴリー)で、製品を位置づけることにより、新たな市場を創造することである。留意すべきは、企業からの位置づけではなく、消費者の頭の中で位置づけがなされることである。

 にしかわ・ひでひこ 1985年同志社大学工卒、ワールド入社。2001年ムジ・ネット取締役。04年神戸大学博士(商学)。10年から現職。著書は「ネット・リテラシー」(共著、白桃書房)など。

西川英彦(2013)「カテゴリー創造(上)法政大教授西川英彦氏 - 機能絞り 分かりやすく:ノンフライヤー(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2013年12月20日付け、 p.4.