column 2013.12.27

「カテゴリー創造(下)- うまく差別化、市場拡大:キリンフリー、オールフリー、ドライゼロ(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【図・写真】キリンフリー(左)とオールフリー(中)、ドライゼロはノンアルコールビール市場を広げた<br />

【図・写真】キリンフリー(左)とオールフリー(中)、ドライゼロはノンアルコールビール市場を広げた

 ノンアルコールビールは短期間にカテゴリー創造できた市場だ。2009年、10年、11年と3年連続で日経MJヒット商品番付に登場。12年は市場全体で前年比37%増の1650万ケース(1ケースは大瓶20本換算、キリンビール推計)と、大きく成長を遂げた。

 先駆者であるキリンビールの「キリンフリー」は飲酒運転が社会問題となっていた07年に開発が始まった。ビール風味飲料は既にあったが、アルコール分が0・1~0・5%程度含まれていたため、飲んだ後に運転してよいか不安に思う消費者も多かったという。

 アルコール分が完全にゼロでビール風の味をつくるのは困難を極めたが、麦汁製造と香味調合の技術を駆使して解決。ビールの定番の小判型エンブレムを採用した世界初のノンアルコールビールが09年4月に誕生した。

 発売時に飲酒運転根絶を訴えるイベントを開催した。需要を見込んだドライバーだけでなく、飲酒できない妊産婦からも支持されヒットした。

 飲酒できないときの代替需要を狙い、飲む理由を与え、市場を切り開いた。限定的に訴求したからこそ既存のビール風味飲料との違いが際立ち、それと似て非なるカテゴリーを立ち上げることができたといえるだろう。

 サントリー酒類は、すかさず同年9月に「ファインゼロ」を発売するも差別化できずに苦戦した。改めて調べると購入者の男女の比率が同じだった。主婦が掃除の後や塾の迎えの前など、家事の合間に日常的に飲む需要があるのではないか――。

 そう考え、後継商品では仕方なしに代替として飲むのではなく、「あえて選ぶ」積極消費を狙った。味だけでなく健康に気をつかい、カロリーゼロ、糖質ゼロ。パッケージは小判型エンブレムや金銀のメタリックではなく、白が基調。10年8月に発売した「オールフリー」は飲用シーンを広げ、日常的にノンアルコールビールを飲む市場を大きく伸ばした。

 アサヒビールも10年8月にアルコール度数とカロリーの「ダブルゼロ」を発売したが振るわなかった。調査で分かったのはノンアルコールビールを飲む人の75%がビール類を週に1回以上飲み、ビールと変わらない味を求めていることだった。

 競合他社はビールを飲まない若者や女性を開拓した。対照的にアサヒは商品を一新し、男性を中心とするビール愛飲者を主要顧客と位置づけた。

 開発段階では顧客の声を聞き、ビールの味として認められるものを目指した。その結果、爽快でドライなのどごしやキレの良い味を実現。シルバーのパッケージで12年2月に発売した「ドライゼロ」は30~40代男性の支持を集め、現在オールフリーに次いで2位につけている。

 購入者の半分は今までノンアルコールビールを飲んでいなかった人で、一段と市場を広げることができた。

 各社は市場知識を踏まえ、互いを差別化して位置づけ競争することで、カテゴリー創造できた市場をさらに拡大・発展させている。ファインゼロやダブルゼロの失敗からも、その重要性は理解できるだろう。

キーワードプラス

【良い競争と悪い競争】カテゴリー創造の拡大・発展には、競争状態が重要だ。製品を同じポジションにぶつけ、互いにつぶし合う「悪い競争」ではなく、製品を差別化してポジショニングし、ターゲットや用途を広げる「良い競争」にできるかだ。

西川英彦(2013)「カテゴリー創造(下)法政大教授西川英彦氏 -うまく差別化、市場拡大(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2013年12月27日付け,p.4.