column 2014.6.2

「価値共創の仕組みづくり(上) ― 関西で進化したくまモン(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【図・写真】トップの熱い思いもヒットにつながった(昨秋の「くまもとの赤キャンペーン」)(C)2010熊本県くまモン

【図・写真】トップの熱い思いもヒットにつながった(昨秋の「くまもとの赤キャンペーン」)(C)2010熊本県くまモン

 ヒットに学ぶマーケティング研修、日経MJヒット塾の2期が始まった。トップバッターは大ヒットの熊本県のPRキャラクター「くまモン」。熊本県営業部長の肩書を持つくまモンと育ての親、前熊本県東京事務所長の佐伯和典氏をゲストにヒット要因と今後の戦略を参加者と議論した。

 くまモンは2011年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業で熊本が通過地点とならないようにと、1年前の3月に生まれた。だがPRのメーンではなくサブ。県の地域づくりのアドバイザー、小山薫堂氏がロゴとキャッチフレーズの「オマケ」として連れてきた。名前は方言の「熊本の者(もん)」に由来する。

 新幹線を使うとほぼ3時間圏内となる関西圏に熊本を売り込む「KANSAI戦略」。くまモンは8月の「関空夏まつり」で関西デビューした。ご当地キャラに交じり、当時無名だったにもかかわらず、名前と姿が新聞で紹介された。

 それからの取り組みは意外性の連続。まず、人出が多い観光名所に出没したこと。道頓堀や大阪城に前触れなく、ぽつねんと現れた。出会った人が交流サイト(SNS)に投稿すると、くまモンもその場の情報をブログで発信した。「人気もお金もないことを逆手にとった」(佐伯氏)神出鬼没作戦が当たり、話題を呼んだ。

 キャラクターなのに名刺を配る。「カバのひと声でやってきたクマです。(知事のカバシマさんに言われまして…)」などと、シャレっ気のある文でコミュニケーションをとった。そして、奇想天外なストーリー。関西で名刺1万枚配布の指令を受けたくまモンが失踪したという設定で、知事が動画投稿サイトで捜索を呼びかけると、多くの人が投稿した。

 くまモンは見た目のイメージと異なり、俊敏な動きで活発に動き回る。関西人が好みそうなツッコミのあるお笑いや意外性を持つ性格となった。当時のほかのご当地キャラにはない特徴という理由もあるだろうが、関西人を標的にしたからこそ生まれた性格だともいえるだろう。

 九州新幹線の開業に加えて、くまモンなどを活用した観光キャンペーンが奏功し、11年の熊本県内の宿泊者数は近畿圏からが前年比66%増加した。

 では、こうした成功は必然だろうか、偶然だろうか。おそらく偶然だろう。関西初登場でのメディア掲載がなければ、オマケのままだったかもしれないのだ。

 だからこそ、偶然生まれた価値を維持するマネジメントが重要なカギを握る。内部だけではアイデアは枯渇する。そのためJR西日本と連携するなど多様な取り組みを生み、ニュースとなる仕掛けを繰り出した。

 くまモンの商標使用は無料。県が熊本のPRにつながる商品であると認めれば使用を許諾する。13年のくまモン商品の売上高は449億円を超え、使用許可件数は今年1月末で1万5千件に達した。こうした共創が熊本のPRだけでなく、ニュースを継続させる。

 同時に、共創は互いが意図していないような新たな価値を創出する可能性を持つ。関西人との共創でくまモンのユニークな性格が生まれたように、新たな価値を取り入れ進化する可能性を持つのだ。今後の戦略を議論した塾の参加者との共創で、今までにない価値をもたらす、くまモンが生まれることを期待している。

キーワードプラス

【共創(コ・クリエーション)】共に創るという意味で、単に企業間の連携だけでなく、企業と顧客が共同で価値を創造することを指す。コンセプトを提唱した「価値共創の未来へ」の著者、ラマスワミとプラハラードはこれからの社会の変化対応に不可欠な取り組みという。

西川英彦(2014)「価値共創の仕組みづくり(上)法政大教授西川英彦氏 ― 関西で進化したくまモン(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2014年6月2日付け、p.2.