企業の中で、個人が影響し合い相乗効果をもたらす「創発」が生まれれば、新しい価値創造の可能性は高まる。だが、どうすれば実現できるのか。10のカンパニーで多様な事業を展開し、約6000人の社員を抱えるリクルートの社内向けメディアがその参考となる。
今年4月、同社は約600人の責任者クラスに月1回限定配信する「マネジメントX」の内容を社員の声を基に刷新した。新しいビジネスモデルやマーケティング、ネット技術の紹介だけでなく、事業責任者による戦略や状況を説明する。
こうした社内メディアは、1963年に始まった「週刊リクルート」に端を発する。これは「社員皆経営者主義」に基づいて、誰もが経営状況が分かるようにしたものだった。その目的を継承したのが、全社員が閲覧できるよう社内サイトに掲載する「リクルート★NEWS」だ。各事業の取り組みや市場動向などに評価や解釈を加えた情報を、ほぼ毎日更新する。
さらに、実績を上げた社員を褒めるメディアとして「ほメール」がある。月間、4半期、年間で、各カンパニーが選出したMVPの社員の顔を掲載する。シンプルな作りだが、競争を楽しみつつ事業を促進する。同社の褒める文化を継承しようというメディアだ。
一方、事業に直接関係するものだけでなく、社員やOB、社外の人などに焦点を当て、リクルートのDNAを伝える「かもめ」=写真=という社内報をもつ。移動中などにも気軽に読めるよう紙媒体となっている。これらのメディアに掲載されるのを目標にしている社員も多いという。
このように、現場から責任者まで様々な個人が登場し発信する多様な社内メディアは、個人の創造性に影響を与え、価値創造を促す可能性をもつ。同社による数多くの独創的なビジネスの展開は、まさにその裏付けとなるだろう。
だが、同社が単に社内メディアを用意しているだけではなく、社員へのヒアリングを丹念に繰り返し、メディアの内容を絶えず改善していることを留意しなければならない。読んでもらえてこそ、メディアは効果を発揮するのである。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2011)「社内メディア ― 多様な情報、創造性育む(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年7月14日付け、p. 9.