column 2011.6.2

「少女漫画、米で推薦図書に ― 『米社会の課題』深く描写(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】ミサコ・ロックス!の著書

【図・写真】ミサコ・ロックス!の著書

 

 日本市場が存在し、それが海外では空白となっている場合、新市場創造のチャンスだ。それでも、何もない海外で市場づくりを軌道に乗せるのはそう簡単ではない。まず、足がかりとなる橋頭堡(きょうとうほ)を築くことが欠かせない。バットマンやスパイダーマンに代表されるアメリカン・コミックスが主流である米国漫画市場において、少女漫画市場を創造しつつあるミサコ・ロックス!(本名=高嶋美沙子さん)の漫画が、その手本となる。

 今年3月、ミサコはその活動を日本に広げ、「親子で楽しむこども英語塾」を出版した。日本の伝統文化を英語で紹介しつつ、米国文化との違いを学べる内容である。

 そもそも、米国でのミサコの漫画は、アメリカン・コミックを意識して、アクションと初恋を入れた2000年代後半の「バイカー・ガール」が始まりである。続いて、日本女性と米国男性とのラブストーリー「ロック・アンド・ロール・ラブ」が出版された。ミサコは、実際に何度も高校を訪問し、授業やランチタイムでの会話や行動を調査。女性の現実の悩みや目標を深く理解した。こうした市場調査による深い心理描写が、ターゲットである米国ティーンの共感をよぶ内容となった。

 同書はニューヨーク公立図書館の司書による推薦図書リスト「ベスト・ティーンズ・ブック」に選出され、全米の図書館に置かれている。米国市場では、司書の影響力が高く、一般の書店の販売にまで多大な影響を与える。まさに、空白市場に橋頭堡を築いた形となった。

 では、ターゲット市場の調査をすれば、橋頭堡が築けるのかというと、そう簡単ではなさそうである。ミサコのケースでは、彼女の留学や仕事などの米国での体験を基盤にしつつ、市場調査をもとに、米国における異文化交流の難しさや、そこで努力する姿が描写されている。多様な民族のいる米国社会ならではの課題を捉えた内容がニューヨーク公立図書館の司書に評価された。だからこそ、同書は漫画であるにも関わらず、米国で推薦図書にも選出されたのだ。

(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「少女漫画、米で推薦図書に ― 『米社会の課題』深く描写(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2011年6月2日付け、 p.9.