自社の製品をいつまでも顧客に使い続けてほしい――。そう考えるのはメーカーなら当然だが、企業競争が一段と激化する中、それは簡単ではない。それでも玩具市場で子供から高年齢層にも顧客を拡大している事例がある。デンマークの組み立てブロック玩具メーカー、レゴ社の日本法人、レゴジャパン(東京・台東)の教育部門だ。
同社部門は今年も6月19日、甲南大学西宮キャンパスである甲南CUBE西宮で「レゴエデュケーションカンファレンス」=写真は昨年の模様=という会合を開く。全国の小学校から大学、企業までの教育関係者が集まり、レゴブロックやそれを基にした力学やエネルギーなどの原理を学べる「レゴサイエンス&テクノロジーキット」、米マサチューセッツ工科大学と共同開発したロボットキット「レゴマインドストーム」などを使った教育法を実際に体験しながら学習する。これら教材はすでに世界で5万校、日本で6000校で活用され、企業研修にまで広がっている。
レゴグループはレゴマインドストームをベースにした3つのロボットの大会も支援している。昨年の参加者は、世界で延べ18万人、日本では小学生から社会人まで4000人を超える。
アジアでは3歳から小学生を対象にしたレゴ・エデュケーション・センターも開校。共同作業や作品のプレゼンテーションを通じて創造性やコミュニケーション能力の養成を目指している。日本に12校、韓国に100校、中国に12校ある。
これらの試みでは、決まった答えが用意されているのではなく、レゴブロックを楽しみながら、多様な問題解決を目指すスタイルを取り入れている。
レゴブロックの教育ツールとしての利用は35年前、世界中の小中学校の先生の要望から始まった。それを受けて、レゴ社が製品に機能を付加しつつ教育法も開発してきた。「機能を付加すれば自社製品でも顧客層拡大が可能ではないか」と思うかもしれない。だが、レゴ社の事例で大事なのは、製品だけでなく、教育法などサービスの開発だったことを忘れてはならない。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2011)「教育法で顧客層拡大 ― レゴ、学校分野を開拓(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年5月12日付け、p. 9.