column 2011.4.21

「キリンフリー ― 社会貢献で市場つくる(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

 今、ボランティアなどの社会貢献活動をしようと考える人も多いだろう。だが、利潤追求が前提となる企業が継続的に取り組むのは簡単ではない。それでも、企業が本気で社会貢献活動をマーケティングに組み込めば、新市場を創造する可能性をもつ。その実例ともいえそうなのがキリンビールのアルコール0%のビール風飲料「キリンフリー」だ。

 5月11日から実施される全国交通安全運動期間内に、タレントの斉藤ふみさんが博多警察署の一日署長として飲酒運転根絶を訴え、啓発活動としてキリンフリーを街頭で配布する予定だ。

 キリンフリーは飲酒運転が社会問題となっていた2007年に開発が始まった。当時、ビール風飲料は業界にすでにあったが、約0・1~0・5%程度のアルコール分が含まれていた。飲んだ後に運転してもよいか不安に思う消費者も多かったという。

 とはいえ、アルコール分を0%にするのは、困難を極めた。ビール風の味をつくるには、麦汁の発酵プロセスが不可欠で微量のアルコールが残ってしまうためだ。そこで、発酵させずに、麦汁製造技術と香味調合技術を駆使しビール風の味をつくることで解決した。

 09年4月の発売時には、東京湾アクアラインの「海ほたるパーキングエリア」で商品PRとともに飲酒運転根絶を訴えるイベントを開催。同年9月には、日本自動車連盟(JAF)や全日本交通安全協会が推進するハンドルキーパー運動推進への協力を表明した。同運動は車で仲間と飲食店へ行く際、飲酒しない運転役を決めるのを促す。その後も全国の警察署などの飲酒運転根絶イベント=写真=を数多く支援してきた。

キリンフリーは発売から2カ月足らずで当初の年間販売目標を突破するなど、ビール風飲料では過去に例のないヒット商品となった。自社だけで価値を大きくしていくのではなく、社会貢献活動を通じて関係者を巻き込みながら価値を共創していく。その可能性をキリンフリーの事例は示しているのかもしれない。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2011)「キリンフリー ― 社会貢献で市場つくる(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2011年4月21日付け、 p.9.