消費者が購入前に自社製品を詳しく知ってくれれば、新たな顧客に育つ可能性が高い。そんな学習の場をどう提供しファンを増やせばよいだろうか。ヒントになるのが、講座やメルメガをうまく使うムジ・ネット(東京・豊島)の取り組み。同社は「無印良品」を売る良品計画の子会社で住宅事業を担当している。
キャナルシティ博多(福岡市)の無印良品店内に「キャナルシティ博多家センター」が4日オープンする。家づくり全般に関する講座を消費者に提供する場だ。もらった「家づくりノート」に必要事項を書き込みながら、注文住宅はどう建てればよいのか体系的に学べる。同様の講座は「MUJI新宿家センター」=写真=などでも体験可能だ。
同社は2000年に無印のサイトを開設した時から住宅販売の構想を持ち、消費者の意見を聞いてコンセプトを固めた。「住み手が自在に編集できる家」だ。04年に販売を始めて500棟超の注文を受け、400超の家族が実際に住む。
家づくり講座の受講者はハウスメーカー各社の製品を比較・研究した上で無印のモデルハウスに再び足を運ぶことが多いという。むろん顧客の自発的な学習に任せているだけではない。担当者はノートを見て顧客が住宅購入のどの段階にあるかをつかみ、適切に助言ができるよう訓練済み。同社全体では家づくりに意欲的な顧客の段階とその割合を把握し、どんな情報を提供すれば学習でき購入に結び付きやすいかを考える。
持ち家に関心がない潜在的な顧客にも学びの機会を提供する。住宅企業がメルマガを持つのは珍しいが、無印は約52万人の読者に「どう暮らしているか」などインテリアの参考にもなる情報を発信。メルマガを読んだ人が次にどんな行動を起こすかを想定しネット上により詳細な情報を一覧で載せる。顧客の自発的な学習を段階別にこれほど徹底的にサポートする消費財メーカーは珍しいだろう。
「そんなやり方は我が社の製品では無理」と考える経営者もいよう。だが意識するかしないかの差はあれ消費者は買ったり使ったりして絶えず製品を学ぶ。買う気にさせるには顧客に寄り添い、その学習に積極的に関わることも大事だ。
(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2011)「無印良品、家づくり講座 ― 製品学ぶ場、『買う気』喚起(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年3月3日付け、p. 9.