新市場の創造は容易ではないが、その可能性は新製品発売前後の探索的調査と検証的調査でグンと高まる。ハウス食品のグループ会社、ハウスウェルネスフーズ(兵庫県伊丹市)の炭酸飲料「C1000」シリーズの事例が示唆に富む。
昨年5月発売の「C1000 ビタミンレモンコラーゲン」=写真(右)=は美肌を意識する女性の取り込みに成功し、美容リフレッシュ飲料という新市場を開拓した。既存のロングセラー「C1000 ビタミンレモン」=写真(左)=の販売も落ちていないという。
C1000は当時の武田食品工業が1990年に発売。翌年にはレモン味のビタミンレモンが出て、2006年からハウスウェルネスフーズのブランドになった。当初からの味や容器を大きく変えず幅広い層の支持を集めてきたが、近年は販売が微減傾向にあった。
状況を打開しようと、同社は新製品向けの探索的調査を始める。ビタミンレモンとカニバリゼーション(共食い)を起こす懸念もあったが、健康飲料市場では「女性美容」の機能が有望だと分かった。代表的な成分はビタミンCで次がコラーゲンだ。こうしてコラーゲンを使った飲料で女性を狙う仮説が決まった。
だがコラーゲン飲料は思ったほど普及していなかった。消費者に聞くと値段の高さ、味や独特のニオイ、高カロリーなどの問題があった。そこでビタミンレモンコラーゲンは市場の半分程度の価格帯に設定。レモンと炭酸で飲みやすくしカロリーオフに仕上げた。
話はここで終わらない。発売後の検証的調査で仮説外の男性市場が生まれたことが分かった。美肌を意識する男性もビタミンレモンコラーゲンを買っていたのだ。ポイントは容器の色。従来のコラーゲン飲料は赤やピンクが基調の製品が多く、男性は手を伸ばしにくかった。ビタミンレモンコラーゲンは薄い緑色だ。
皆さんは探索的調査が必要とは考えても「売れたことが証しだから検証的調査は必要ない」としていないか。2つの調査をすることに意義がある。探索的調査で仮説を持った上で検証的調査をしなければ、自ら生み出した新市場を見逃している可能性もあるのだ。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2011)「新製品、発売前後に調査 ― ハウス系、美容飲料で新市場(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2011年2月10日付け、p. 9.