column 2016.10.24

「商品企画の要諦(下)― 『プロセス』管理、成功に導く(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

 うまい商品企画は、ヒット商品を生み出す可能性をもつ。先週に続いて、このテーマをみていこう。今週は、商品企画における「プロセス」に着目して、その要諦を取り上げる。

 商品企画を効果的に行うには、探索的調査から始め、コンセプトデザイン、検証的調査、企画書作成という一連のプロセスが重要である。多くの企業を調査した結果、プロセスを採用していない企業に比べて成功の割合も高いという事実も明らかになっているからだ。

 探索的調査ではグループインタビューやデプスインタビューなどの「インタビュー法」、人々の行動パターンを見る「観察法」、改善や創造をしている先端的なユーザーをみつけアイデアをもらう「リード・ユーザー法」がある。消費者参加型製品開発がそれにあたる。

 これら1つを行う場合もあれば、全てを行ったり、ミックスされていたりする場合もある。先週の「はとバス」でみた「常識の逆説」のようなアイデアを発想するには、消費者ですら気づいていないアイデアを得られる観察法が有効という。

 コンセプトデザインでは探索的調査を基にアイデアを発想する「アイデア創出」、アイデアをユーザーにとっての便益というわかりやすい形で表現する「コンセプト開発」、それを具現化して試作品を作る「プロトタイピング」がある。探索的調査の中で、アイデア創出が並行して進む場合も多い。「はとバス」で学んだのは、特に、このプロセスだ。

 検証的調査では商品コンセプトの市場における可能性を検証する「市場規模の確認」や、競合・技術における優位性を検証する「競合・技術の確認」、商品コンセプトの顧客ニーズとの適合性を検証する「顧客ニーズの確認」がある。

 実際には、アイデア創出の中で、アイデア・スクリーニング(選別)や、コンセプト開発の中で、コンセプトテストなどの検証的調査が行われる場合も多い。このように、コンセプトデザインと検証的調査が段階別に行われることも多い。さらに、発売後も検証的調査は継続的に実施される。

 各プロセスは並列して進んだり、戻ったりすることもある。試行錯誤しつつ進んでいき、最後に整理され、企画書作成が行われる。

 こうした商品企画プロセスの要諦を3点挙げる。第1に、時間とコストの管理の重要性。試行錯誤するとはいえ、時間も費用も無制限ではない。段階別のスケジュールや予算を最初に立て、その進捗状況を把握し、管理していくことが重要である。時間がかかると、競合商品が先に発売されてしまうというリスクもある。

 第2に、早期の意思決定の重要性である。プロセスの後半になるほど、試作品の作成などのコストが多くかかるため、良くないアイデアや商品コンセプトは早めに中止の判断をする必要がある。だが、早期意思決定で、良いアイデアを中止してしまう可能性もあり、留意する必要がある。

 第3に、相互学習の重要性である。自分の出したアイデアや意見を絶対視せずに互いの気付きやその状況を理解し、相互学習していくことが大事である。そのためには、探索的調査などを一緒に体験していくことも意義がある。

 各プロセスの具体的な内容は、ケースを基に分かりやすく解説した拙書「1からの商品企画」(碩学舎)を参考にしていただきたい。

キーワードプラス

【属人的・組織的商品企画プロセス】企業によっては、4つの商品企画プロセスを1人のエースが属人的に実施し、ヒット商品を生み出していることがあるかもしれない。だがヒットを安定的に打ち続けるためには各プロセスをチームで組織的に実践できることが肝要であろう。

西川英彦(2016)「商品企画の要諦(下)法政大学経営学部教授西川英彦氏 ― 『プロセス』管理、成功に導く(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2016年10月24日付け、p.2.