マーケティングでは、何を競合する製品・サービスに設定するかが重要。自社が優位になる標的を競合にできれば有利になる。「そんな都合のよいことができるのか」と考える人もいようが、うまくいけば市場創造の可能性を持つ。電動アシスト自転車市場で躍進しているパナソニックサイクルテックはその好例だ。
乗り手の駆動力を補助する電動アシスト自転車は、子育て中の主婦や高齢者らを対象に日常生活の足として普及してきた。同社にとって、ヤマハ発動機やブリヂストンサイクルなどが競合企業であるのはもちろんだが、より大きな競合製品は自転車だ。
電動アシスト自転車は自転車より高価。少ないとはいえ電気を使い、環境に負荷を与えるという位置付けだ。駆動力の補助は優位だが、ないと非常に困るものでもない。だがバイクと比べるとスピードやパワーは劣るが、ガソリンを使わない分環境に優しく、維持費などコストも低い。一方通行などの交通ルールも厳しくなく便利という位置づけになり、優位性が際立つ。
バイクを競合に電動アシスト自転車が優位性を発揮できるのは宅配や新聞配達、警察巡回、機器修理などの業務用。パナソニックサイクルテックはビジネス用モデル=写真=でこうした市場を積極的に攻め、トップシェアを持つという。
排気量90ccのバイクが出す二酸化炭素(CO2)は業務用の平均で年間542キログラム。それを電動アシストに変えればCO2排出をほとんど削減でき、コストも抑えられる。メタボ対策として利用者の健康改善につながるなど意図せざる結果までもたらしたという。
毎日、長時間使う業務用製品ならではのニーズをいち早くとらえたことも功を奏した。長時間乗っても痛くならないように尻を包みこむようなサドルや、パンクしても2~3時間は走れるタイヤ、簡易にタイヤ交換できる仕組みを開発。これらの機能は一般消費者向け製品にも応用し、競争力を高めているようだ。
強みを発揮できる競合の設定は、新市場で成功する可能性につながる。ただ「自社製品が強い」と企業がいかに主張しても、最終的にそのことを判断するのは顧客であることを忘れてはならない。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2010)「競合製品設定の妙 ― 電動補助自転車、業務用攻める(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2010年11月25日、p. 9.