column 2016.10.17

「商品企画の要諦(上) ― はとバス、光る『組み合わせ』(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【図・写真】はとバスは素材をうまく組み合わせ、工場夜景ツアーをロングセラーにした<br />

【図・写真】はとバスは素材をうまく組み合わせ、工場夜景ツアーをロングセラーにした

 うまい商品企画は、ヒット商品を生み出す可能性をもつ。2週にわたって、このテーマをみていこう。今週は日経MJヒット塾6期で訪問した、はとバス(東京・大田)を取り上げる。

 同社定期観光部で長年、商品企画にあたってきた江沢伸一氏(現企画旅行部部長)は「人気のコースであればあるほど、多品種少量生産でバリエーションを増やし、お客さまの多様なニーズにしっかりと応えなければならない。それが、東京観光を一手に担う、はとバス流のおもてなしだと心得ている」という。

 そこで今回の研修では、受講者は2つの人気ツアーを体験した上で、派生企画の立案が求められた。

 1つは、2010年から始まった「話題の川崎工場夜景スポット」。毎週土曜の夜に運行し、今も毎回満席のロングセラー商品だ。

 ツアーは川崎市臨港部にある川崎コリアタウンの焼肉店での食事から始まる。その後、バスに夜景専門のナビゲーターが乗り込み、周辺の工場の歴史が語られる。ナビゲーターは、「川崎産業観光検定」に合格し、1年の研修を受けており、現在9人が務めている。

 バスを降り、工場横の路地を通り港に出る。倉庫の2階から対岸の工場夜景を眺める。はとバスが独自に交渉した絶景スポットだ。

  「ここから工場をしゃがんで撮るのがベストです」「白色の照明は製造エリアで、オレンジ色は倉庫エリア」など、ナビゲーターから随所に夜景の詳しい説明が入る。数カ所を巡り食事代込みで大人1人6200円(税込み)とお値打ちだ。

  もう1つは、2階建てオープンバス「オー・ソラ・ミオ」に乗り、国会議事堂、東京タワー、レインボーブリッジなど東京のランドマークを車窓から1時間見学する「TOKYOパノラマドライブ」。360度の眺望は見たことのない景色。毎日7便あり、大人1人1800円(税込み)ととっさに決めやすい価格だ。

 江沢氏の話によると、同社は、1964年に123万人だった利用者数が、04年に54万人と半分以下に落ち込んだ。そこから8年で91万人の利用者数へと復活を遂げた起爆剤が、商品企画力だというわけだ。

 たくさんある同社の商品企画力のポイントを大胆にも3点に整理してみよう。まず、常識の逆説だ。同社では、従来顧客だと意識していない首都圏在住者をターゲットに設定した。先の工場夜景ツアーが、その例であろう。1日や半日ツアーという常識も覆す1時間のオー・ソラ・ミオも、それだ。地方の顧客も気軽に参加できるようになり、予約なしに利用する顧客が50%にも上る。

 次に、組み合わせて考えることだ。ツアーストーリーを意識した上で、工場夜景というメーン素材に、専門ナビゲーター、焼き肉という副素材を入れ、通常入れない工場敷地という隠し味を組み合わせる。さらに、バリエーションを増やす一方、訪問先など共通部分を設け、「範囲の経済」を意識して設計するのも重要だ。

 最後に実験的企画の実施であろう。常識と異なる企画や多様なニーズに応えたバリエーションを実践し、現場で実際の顧客の反応を見て修正していく。企画者は1回目の添乗を義務付けられる。実験し改善する姿勢も重要だ。

 同社であればヒット塾参加者のアイデアが生かされる可能性も高いであろう。

キーワードプラス

【範囲の経済】企業が資源や顧客を共通にし、コストは抑えつつ製品の種類を増やして、収益を向上させることをいう。小売店が品ぞろえを拡張するのも、その例だ。だが、広げたことで、シナジー効果が生まれているかどうかの見極めも重要だ。

西川英彦(2016)「商品企画の要諦(上)法政大学経営学部教授西川英彦氏 ― はとバス、光る『組み合わせ』(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2016年10月17日付け、p. 2