column 2016.7.28

「シーブリーズ ― ターゲット変え成功(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【図・写真】カラフルな「シーブリーズ」(左から3本)と以前からの継続品

【図・写真】カラフルな「シーブリーズ」(左から3本)と以前からの継続品

 ターゲット顧客の変更で、売り上げが低迷していた製品が息を吹き返すことがある。その好例が資生堂の化粧品「シーブリーズ」だ。現在と同じ天然由来の成分で、1902年に米国東海岸にて誕生。家族をターゲットに、肌のトラブルを解消する家庭常備の消毒薬(アンティセプティック)として広がった。

 日本には69年に上陸。競合商品がない中、同じく米国から上陸したコカ・コーラやマクドナルドと共に市場で注目された。米国同様にファミリー層を対象に、理美容院発の万能スキンケアローションとして、売り出された。

 サーフィンなどのマリンスポーツファンの都会の若者から人気を博し、82年に家族から若者へとターゲットを変更した。若者に人気のタレントを起用し、夏や海をイメージするCMを大量投下し、夏の定番ブランドとして成長した。

 2000年に資生堂のブランドとなり、継続して夏を中心にプロモーションを実施したが、売り上げは右肩下がりだった。06年には、夏の肌や髪をケアする「ナチュラル+エイド」として、本質的な価値訴求を行うが大きな成果は得られなかった。

 そのため、ターゲットの行動や嗜好を徹底的に調査。毎年定期的に実施していた時系列調査を改めて分析した。80%以上の人がシーブリーズのイメージを夏や海と答える一方、若者の75%の人が海やプールに行く回数が減った、もしくは行かないという結果で、その割合が増えていることがわかった。

 そこで、使用シーンを海から街へ大きく変更。「日焼けケア」から「汗ケア」へとコンセプトを変えた。マリンスポーツを楽しむ若い男性から、高校生、とりわけ流行を生み出す女子高生へとコアターゲットを変えた。

 CMもハワイ撮影や大物タレントの起用をやめ、高校生の日常に近い学校での撮影や、共感を得やすい等身大のタレントにした。

 パッケージも高校生を狙ったカラフルなボトルにし、香りも増やした。その結果、売り上げは回復した。

 このようにターゲット変更で市場を開拓してきた。だが、既存ターゲットの対応も重要だ。同社は、家庭常備薬を訴求している既存パッケージも維持している。また今回の例は長期トレンドの変化に気づける時系列調査の重要さを改めて示している。
(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2016)「シーブリーズ ― ターゲット変え成功(西川英彦の目)」『日経産業新聞』 2016年7月28日付け、 p.19.