消費者が製品のアイデアを思いついた際に、どの企業に提案するだろうか。中小企業に持ち込むという人は決して多くないだろう。ただ中小企業であっても優先的にユーザーから相談してもらえれば、大企業などに比べ、開発の優位性をもつかもしれない。
こうした消費者のアイデア、すなわち「ユーザー・イノベーション」を積極活用するという旗印が、新しい市場創造の可能性をもつ。その好例が、プラスチックメーカーの旭電機化成(大阪市、原直宏社長)のケースだ。
同社はかつて懐中電灯の下請け業で50億円あった売上高が、バブル崩壊の影響で8億円にまで減少。こうしたなか下請け100%からの脱却を進め、下請け業を残しつつ、自社オリジナル商品を開発するという「二刀流経営」を実践してきた。自社オリジナルの「スマイル・キッズ」という製品群は、いまや年商が23億円に達する。
この製品開発を支えたのがユーザー・イノベーションの活用だ。銭湯の店主は番台での暇な時間に、安全で簡単に抜けるプラグを考えた。横のレバーを握ると先端からバーがでて安全に抜けるもので、「らくらくプラグ」として同社が製品化。15年間で70万個を超える大ヒット商品となった。
ある主婦は10年かけてレモン絞りの改良実験を木製の試作品で試行錯誤して行い、絞りやすい形状を探しあてた。試作品を旭電機化成に持ち込み、半年をかけて完成したのが、30万個のヒット商品となった「レモンしぼり革命」だ=写真。
こうした話を知り、テレビ局とのタイアップも行われる。「大阪ほんわかテレビ」という番組ではアイデア募集から完成までが複数回放映された。試作品を何度も製作していた主婦のアイデアから、毛染め用ケープとヘアキャップが一体になり、自宅で簡単に毛染めができる「ケープ&キャップ」が番組で生まれた。
大学のコンテストや発明協会からも相談を受け、商品化できるアイデアを常に探している。原守男専務は「中小企業は自分たちのアイデアだけでは足りず、ユーザー・イノベーションの活用は不可欠だ」という。
こうした経営は別のテレビ番組などの多くのメディアでも紹介されている。同社のサイトでは、製品の紹介やアイデア募集が行われる。ユーザーに寄り添い、粘り強く商品化していく姿勢が見えることが、新たなユーザーの応募につながるのだろう。(法政大学経営学部教授)
西川英彦(2016)「ユーザーのアイデア活用 ― 中小企業に可能性開く(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2016年3月24日、p.19.