column 2016.2.29

「消費者創造資源による法人市場(上)『即時情報』の利点を共有:クックパッド(日経MJヒット塾)」『日経MJ』

【図・写真】「たべみるLite」の検索データはスマホで見られる

【図・写真】「たべみるLite」の検索データはスマホで見られる

 消費者創造資源をうまく活用すれば、法人市場を生み出す可能性をもつ。2週にわたって2つのケースをみていこう。今週は第5期日経MJヒット塾で訪問したクックパッドを取り上げる。消費者による230万品を超えるレシピを掲載する同社が2013年2月に始めた「特売情報」だ。

 このサービスは消費者がサイトで自宅の郵便番号から探した近所のスーパーや青果店、鮮魚店などの毎日の特売情報を無料で受け取ることができる。登録ユーザーは510万人に上る。

参加店舗は1万7000店超。基本サービスは無料のため、月額数十万円かかるといわれるチラシに手をだせなかった商店街の小規模店舗も利用しやすい。データ分析などが受けられる有料サービスの導入店舗も5600を超えている。

 「これからマグロをさばきます」「アスパラを揚げます。1時間後に買いにいらしてください」――。店のスタッフは、こんなコメントと共にその写真をリアルタイムで掲載できる。

 在庫状況や天候に応じ、特売情報を即時発信することができ、生鮮食品の販促にも向いている。チラシの場合は一般的に1カ月前に内容を決定するため、価格変動が大きい生鮮食品は扱いにくかったのだ。

 特売情報は本部や店長でなくても現場のパートがスマートフォン(スマホ)で手軽に発信できる。さらにスマホで、何人に特売情報が届き、何人に見られたか、閲覧者の居住エリアも即座に分かり、販促効果の検証もできる。

 こうした特売情報に生きてくるのが、これまで消費者の投稿により蓄積されてきたレシピという資源だ。

 レシピが特売情報の商品と自動連携。特売商品がゴーヤであれば、ゴーヤチャンプルのレシピが表示される。利用者は料理をイメージでき、店側は料理の材料の豚肉や豆腐の併売にもつながる。一方、レシピ検索した人は近くの店の、その食材に関する特売情報が表示されるので買い物の参考にでき、店への誘導になる。

 クックパッドのレシピの月間利用者は延べ5755万人。料理に関心があり、特売情報を受け取る可能性も高い。店舗スタッフも利用者の可能性が高く、導入をしやすくしているだろう。消費者創造資源での顧客基盤を共有できている。

 さらにこうした資源による行動データの蓄積も活用されている。店のスタッフは料理のトレンド情報を簡単につかめる。クックパッドのユーザーのレシピ検索データを活用した小売店向けサービス「たべみるLite」で、いま作りたいと思っている「きてるランキング」を確認できる。

 昨年1月下旬、東海地方で「甘酒」が総合1位に急上昇した。テレビなどで取り上げられて話題になっており、それを裏付けるデータだった。東海地方のある店舗の担当者は、特売情報や店舗販促で甘酒を強化。その結果、1~2月の甘酒の売り上げは前年比5割増と大きく伸びた。

 たべみるでは、一緒にレシピ検索されるワードも分析できる。例えば「おでん」に「オイスターソース」が増えているとわかれば、店頭での陳列や販促の工夫につなげることができる。

 このように法人市場は、消費者創造資源を共有・補完し、シナジー効果をもつ。さらに、その生起する効果が企業だけでなく、顧客にとって価値があるかどうかが、継続的成長に向けて肝要であろう。

キーワードプラス

 【関連多角化】多角化には、既存技術や顧客などの資源と関連の低い「非関連多角化」とケースのように既存資源と共有・補完する「関連多角化」がある。大事なのは、どの資源をコアとするか。それにより、多角化の成否に関わる、拡張の方向性が変わり得るからである。

西川英彦(2016)「消費者創造資源による法人市場(上)『即時情報』の利点を共有(日経MJヒット塾)」『日経MJ』2016年2月29日付け、p.2.