column 2015.6.4

「リポジショニング ― 訴求点変え、市場開拓:果汁グミ(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

【写真】果汁グミぶどう

【写真】果汁グミぶどう

 既存製品の市場での位置づけを変えることが、新市場創造の可能性をもつ。こうした「リポジショニング」の好例が、明治の「果汁グミ」=写真=だ。

 果汁グミは、果汁100%というコンセプトで1988年に発売され、子供から20代女性まで広まり、ヒット商品となった。99年には親が安心して子供に食べさせられるよう、着色料の使用をやめた。

 産地を変更するなど製法全般を見直し、自然な色合いを出す工夫をした。パッケージにも「着色料不使用」と記載し、安全性を訴求。グミのトップブランドとして順調に育っていた。

 だが2000年に入り市場が成熟してくると、20代女性は減少し、グミは子供のお菓子として定着した。

 こうしたなか、02年にカンロが「ピュレグミ」を発売する。20代女性をターゲットに酸味を強調しており、パウダーをまぶしたグミで、強烈な刺激が口いっぱいに広がる。

 明治製菓(当時)も20代女性向けの新しいグミを検討した。開発段階の調査の中で、コラーゲンが含まれていることにターゲットの反応が良いことに気づいた。コラーゲンは、そもそもグミの原材料であるゼラチンに含まれていたのだ。

 当時、美容や健康を意識する女性が増え、コラーゲンが化粧品や健康サプリメントなどで人気素材となっていた。コラーゲンが含まれていることでマシュマロがブームになったりした。

 こうして05年に発売したのが「果汁グミぷぷるん」だ。「噛(か)むコラーゲン」のロゴと、1袋にコラーゲンが1500ミリグラム含まれていることを表示しており、ぷるぷるとした食感を売り物にしていた。

 これはメーン商品の果汁グミの市場での位置づけを変えることにもつながった。従来の果汁グミにも「噛むコラーゲン」のロゴや含有量のグラム表示をしたことで、美容健康を気にする幅広い年齢の女性に、小腹を満たすおやつとして食べてもらえるようになった。

 カロリーの低さや、手に汚れが付きにくいことも女性向けの人気を後押しした。コンビニエンスストアでの果汁グミの採用率も上昇。果汁グミはロゴ表示前に比べて、07年には2倍の売り上げを達成した。

 このように、製品自体を変更するのではなく、訴求点を変えるだけで、お菓子から美容健康商品にリポジショニングし、新たな市場を開拓したのだ。さらに製品自体を変えていないため、子供のお菓子として、当初の顧客も維持できていることは重要であろう。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2015)「リポジショニング ― 訴求点変え、市場開拓(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2015年6月4日付け、p. 16