column 2014.9.11

「直感的に使える家電 ― 市場、年齢・国籍越える:無印良品(西川英彦の目)」『日経産業新聞』

  直感的に操作できる商品。それが、新市場創造の可能性を持つ。その好例が、生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画が8月に発売した「ダイヤル式ブルートゥース・スピーカー」(5900円、写真(右))と「ダイヤル式LEDライト」(3900円、写真(左))だ。

 いずれも操作ボタンは1つもない。本体を「まわす」だけでスイッチが入り、音や光を調整できる。USBケーブルでパソコンから充電する。スピーカーはスマートフォン(スマホ)と近距離無線通信規格「ブルートゥース」で接続できる。

 新製品は無印良品が進めるAV家電強化の第1弾だ。生活雑貨部エレクトロニクス担当課長の大伴崇博氏は、「複雑な家電が増えている中、無印良品として、年齢性別や国籍を問わず、誰もが直感的に操作できる家電を目指す」と、商品開発の方向性を説明する。

 スピーカーでは、スマホなどに接続して使え、旅先やアウトドアへの持ち運びに便利なコンパクトで音質の良い製品を目指した。

 担当した池内端氏はまず、国内外の空港売店で販売されているコンパクトなブルートゥース対応スピーカーを調査した。ニーズを見込む旅行者や出張者との接点が多い空港に「マーケットとしての芽があると考えた」ためだ。

 サイズや音質、機能を調べてみると、競合品の多くはコンパクトだが、ボタンや機能も多く、マニュアルを読み込まないと操作や設定もできないものだった。マイクを搭載して遠隔会議機能などを備える製品もあったが、「ユーザーがその全てを使いこなすのは無理があるように思えた」。

 そんな中、古いラジオやテレビで音量調整に使われていた「ダイヤルをまわす」という直感的な操作がひらめいた。「ダイヤルがスイッチも兼ねれば、ボタン類は一切不要となる」。こうして説明書を読み込まなくても、直感的に操作できるスピーカーが誕生した。

 続いて「同じようにダイヤルをまわす操作を採用した商品はできないか」と考え、コンパクトな調光できる照明が生まれた。キャンプや枕元の明かりとしての利用を見込む。

 直感的操作は、消費者の商品に対する認識を変え、今までにない新たな価値をもたらす。だた、その開発は簡単なものではない。今回の事例からも分かるように、本質的機能を見極め、余計な機能をそぎ落とすことが不可欠だからだ。(法政大学経営学部教授)

西川英彦(2014)「直感的に使える家電 ― 市場、年齢・国籍越える(西川英彦の目)」『日経産業新聞』2014年9月11日 付け、p.19